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米中をつなぐ日本でありたい

ジャーナリスト / 元上智大学教員 小此木 潔

 4月16日にワシントンで行われた日米首脳会談は米国と中国の対立が大きな影を落とした。共同声明で台湾に言及したのは日中国交回復前の佐藤・ニクソン会談以来52年ぶり。中国による台湾への武力侵攻が起きかねないと危惧し、それをけん制したい米国の同調圧力に日本が従ったという構図だ。もしもの場合、日本が武力衝突に巻き込まれたり、日本と世界の経済が深刻な打撃を受けたりする危うさを感じざるをえない。

  拡大抑止への疑問

 米国のインド太平洋軍司令官は、3月の米議会証言で「6年以内」に中国が台湾を侵攻する可能性を指摘した。同月にあった日米の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)の後で発表された共同声明には「閣僚は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」と記された。これらを背景に首脳会談の共同声明も「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、日米同盟の「抑止力強化」という表現を盛り込んだ。
 日米安保の強化と拡大運用を示唆し、中国の軍事行動をけん制しているように見える。しかし、それが抑止力として機能するかどうかは疑問だ。米空母で台湾海峡を守ることもできた時代が過ぎ去り、空母キラーと言われる弾道ミサイルや、戦闘機などを中国が多数保有しているのが現状である。たとえば中国が台湾独立阻止のため本気で武力を行使する事態となれば、沖縄などにある在日米軍基地を使っても台湾防衛は難しいし、日本の基地なども攻撃対象となる。米中の大規模な軍事衝突が核戦争につながる危険すらある。そう懸念する専門家の議論や分析が米国の新聞に掲載されているのを読むと、不安が膨らむ。
 まして抑止力強化のため日本にミサイル配備を求める声が米政府内にあるというのだから、驚く。そんな拡大抑止の考えは軍拡のエスカレーションを招くに違いない。米国の態度が台湾独立論に火をつけて、中国の暴発を誘うかもしれない。軍事力優先の思考では問題の解決から遠ざかるし、日本の「平和と安定」も損なう道ではないか。


米ホワイトハウスで開いた日米首脳会談後に
共同会見する菅首相とバイデン大統領=4月16日
(官邸ホームページから)

  外交、経済の出番

 台湾への武力攻撃などあってはならないことは言うまでもないが、台湾海峡の「平和と安定」を求めるなら、外交努力こそ欠かせないだろう。中国の反国家分裂法にも台湾の平和的統一を目指すと書かれているのだから、その努力を促すことが何より優先されるべきところだ。香港やウイグルに対する抑圧をやめ、台湾の人々が平和的に統一したいと思えるような中国の姿を示すことが重要だ、と粘り強く働きかけるべきではないか。人民の虐殺を伴うことが懸念される台湾進攻など、ほのめかすことすら世界に脅威感をまき散らし、中国のためにもならないと理解を促すべきだ。
 中国ではネット上にも武力統一論があるようだが、李克強首相が5月28日の記者会見で台湾政策について「祖国の平和的統一を促進する」と述べているのをみれば、実務や経済を重視し平和を重んじる人々は友人としての日本の忠告にも耳を傾けるはずだ。
 日中間の経済的な結びつきが、対話外交に役に立つはずだ。米国内では産業の空洞化や雇用対策のために中国と経済を切り離す「デカップリング」論が台頭してきたが、そういう圧力に屈して日本が中国との経済関係を弱めれば、中国は日本の言うことに耳を貸さなくなるだろう。
 米国との関係もそうだが、最大の貿易相手国である中国に対して太い経済の絆を維持してこそ、発言力も生きてくる。相互依存という経済の現実がある限り、それを壊せば自らも窮地に立たされることを理解するのは容易だ。そういう理解に立つ人が多ければ、紛争や戦争の抑止力になりうる。日本の努力は経済を生かした外交に注がれるべきではないか。

  米中衝突を避ける日本とアジアに

4月20日付朝日新聞オピニオン面のインタビューで米エール大学のウエスタッド教授が語っていたように、日本の役割は、「米中間の緊張が抑制できないレベルになることを防ぐこと」である。日本に限らず他のアジア諸国もまた、米中の衝突を避ける役割を担うべき存在である。
 安保の同盟国だからといって、米政府の方針をいつも忖度し、付き従うばかりが日本の役割ではない。中国は大切な隣人だが、人権や民主化を求める人民の抑圧に目をつむるようではお互いのためにならない。
 激突も懸念される米中を平和という杭につなぎとめる。難しいが決して不可能ではない仕事に知恵を絞り、汗をかき、言うべきことを言う。そんな日本でありたい。


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