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赤木ファイルが映す風景

上智大学文学部新聞学科教授  小此木 潔

 学校法人・森友学園への国有地売却問題で財務省の公文書が改ざんされた経緯を記した「赤木ファイル」がようやく開示された。改ざんの作業を担わされ、苦しみ自殺した近畿財務局職員・赤木俊夫さんが書き残した文書で、政府は存在の確認すら拒んでいたが、妻の雅子さんが真相究明のための裁判で開示を請求してきた

  圧殺された公務員の良心

 赤木ファイルには、森友学園を厚遇したととられる部分や政治家の関与などを削除するよう求めた財務省からのメールも含まれ、当時の佐川宣寿理財局長からの指示が裏付けられたほか、赤木さんが改ざんに強く抗議した様子が確認できる。
 曲がったことができない人だった。「私の雇い主は国民。国民のために仕事ができる国家公務員に誇りを持っています」と語っていた。改ざんを「国民の皆さんに死んでお詫びすることにしたんだと思います」と雅子さんはいう。
 ファイルには赤木さんが業務命令に仕方なく従ったものの、「納得できない」との気持ちから修正等の作業過程を記録することにしたと、保存の理由が述べられている。
 国民のために働く身として、罪の意識に苛まれつつ、どうしても真実と正義を記録に刻んでおきたかったのだろう。「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とする日本国憲法第15条を体現して生きた人の良心と葛藤がにじむ。
 赤木さんは良心を踏みにじられ、死に追いやられた。改ざんを命じた側は「一部の奉仕者」として真実を覆い隠し、公文書改ざんや虚偽答弁という国民への裏切りを心から反省する様子も見えない。
 日本の民主主義のこんな異様な風景を赤木ファイルは改めて映し出した。


自殺した元近畿財務局職員・赤木俊夫さん=朝日新聞デジタルから
(官邸ホームページから)

  真相究明へ再調査が必要だ

 赤木さんの良心の叫びに答えるには、やはり赤木ファイルを新たな入り口として、事件の全体像と真相を究明することが重要だ。それには、雅子さんが求めているように第三者委員会をつくって再調査すべきだろう。
 麻生太郎財務相は記者会見で拒み続けてきたが、再調査の必要はある。理財局長の一存で財務省の組織ぐるみの不正などできるものではないからだ。
 「財務省の組織は一枚岩になっている」という言葉を筆者はかつて財務省の首脳から聞いたことがある。大臣官房や主計局などに内緒で記録の改ざんなどできないほど、細部まで連携がとれているのが財務省だ。まして国会案件や首相がらみの案件なら、なおさらだ。
 局長一人の指揮でできるはずのないことが行われたのだから、それは財務省首脳クラスを含め役所ぐるみで改ざんと虚偽答弁を行ったということに他ならない。そういう事態を招いたのは、政治側からの強い圧力があったせいだとしか考えられない。
 指示や命令、あるいはそれに代わる強い圧力もなしに忖度だけで危ない橋を渡るような官僚などいない。あとで必ず厚遇してくれるという約束でもない限り、人生を棒に振るようなことをするはずがないエリートたちなのだ。天下り先での退職金も含めると巨額の生涯給与をかせぐキャリア官僚たちが、改ざん・虚偽答弁に自ら進んで手を染めることなど到底ありえない話なのだ。
 改ざんが始まったのは、森友学園と安倍晋三前首相の妻昭恵氏の関係が表面化し、国会で疑惑を追及された安倍首相が「自分や妻が関与していたら、首相も国会議員も辞める」と言い放った直後からだった。マスコミはこれを「忖度」と呼んだりしてきたが、安倍政権の中枢にいた政治家の関わりなしに財務省の歴史に泥を塗る不正事件は起こらなかったのではないか。忖度などという流行語も、官僚に責任を押し付けて真実を隠ぺいする都合の良い道具として使われたのではなかったか。

  心ある官僚は真実を語ってほしい

 赤木さんが働いていた近畿財務局は、国民の税金をもとに予算を公正に執行するべき財務省の一組織である。その中枢が腐りはて、良心ある公務員に改ざんを強いただけではなく、自殺したあとも真実にふたをしようとしてきた。こういう人たちに税財政の公正な運営を期待できるのだろうか、という懸念は拭えない。
 かつては予算編成権を手に国家公務員組織の頂点に輝いているようにすら見えた財務省は、優秀な人材の宝庫ともいわれた。政治家からの理不尽な要求もある程度跳ね返す力を持ち、そのことでマスメディアなどからの信頼も得ていた。
 だが、改ざん・虚偽答弁で信頼は完全に失墜した。このうえ赤木さんの死の背景について口をつぐみ、改ざん問題の再調査を拒み続けていては、失われた信頼はいつまでも回復できないだろう。学生の間で公務員志望が衰えているというが、人間としての良心を捨てて働かされるというイメージが払しょくされない限り、事態の改善は難しいのではないだろうか。
 政府が赤木さんの死に正面から向き合い、再調査をもとに首脳たちが心からの反省の言葉を述べるまで、この国の民主主義は再起できないような気がする。
 財務官僚や元官僚の中には、良心の痛みに耐えかねる思いをしている人もいると信じたい。それらの人々が、匿名でも真相解明に力を貸してくれることが財務省と政府の信頼回復につながるのではないか。メディア・ジャーナリズムの側も、そうした心ある人々との連携を通じて真相解明に力を尽くしてほしいと願うばかりだ。

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