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防衛費を増やす日本

ジャーナリスト / 元上智大学教員 小此木 潔

 10月13日付の朝日新聞に驚いた。1面トップ記事の見出しは「自民公約 力での対抗重視」「防衛費『GDP比2%以上も念頭』」とあった。
 2022年度から防衛力を大幅に強化するため、従来は国内総生産(GDP)の1%以内に抑えてきた防衛費の増額を目指すのだという。不思議だ。そんな公約なのに、激しい論戦がなぜ起きないのか、と思った。

 増額掲げた自民の衆院選公約

 調べてみたら、自民党の衆院選向け政権公約の「政策BANK」という文書の中に「新たな国家安全保障戦略・防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画等を速やかに策定します。NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、防衛関係費の増額を目指します」という一節があった。
 「周辺国の軍事力の高度化」に対応し、重大かつ差し迫った脅威や不測の事態を抑止・対処するため弾道ミサイル等への対処能力を進化させ、相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるとしている。北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍事力増強に対抗して軍備強化を進めるということだ。
 しかし、これまで「防衛費1%枠」として定着してきた予算編成の基本的な考え方をそう簡単に変えられるものだろうか。しかも、2%以上も念頭にとは、乱暴だ。2021年度当初予算の防衛費は5兆3422億円(前年度比0.5%増)だから、これを倍以上にするというのなら、10兆円を突破することになる。何年先の目標かは不明だが、財源はどうやって確保するのか。国民の理解は得られるのか。

 1%枠は軍事大国化の歯止めだった

 三木武夫政権が1976年に防衛費膨張の歯止めとして閣議決定した防衛費1%枠は、非核三原則や専守防衛とともに、平和憲法のもとでの防衛のありかたを象徴するものだった。戦争放棄と戦力不保持、交戦権の否認をうたう日本国憲法第9条のもとで、国民の合意が得られる範囲内であり、日本を軍事大国にしない目安として機能してきたはずだ。
 1987年には総額明示方式の導入で表向きは枠が消えたが、実質的に1%以内に収める運用がなされてきたのも、そうした重みがあったからだろう。
 大幅な上積みを求めたのは米国だった。トランプ政権が日本を含む同盟国に防衛費をGDP比2%以上に引き上げるよう要請した。バイデン政権のもとでは、このような圧力が消えるかと思われたが、そうではなかった。
 バイデン大統領が次期駐日大使に指名した元シカゴ市長のラーム・エマニュエル氏が、日本の防衛費の大幅増額を求める考えを表明している。

 日米の連携プレーか

 10月21日の日経電子版に「次期駐日米大使、日本の防衛費増迫る」という見出しの記事が掲載された。エマニュエル氏が20日に上院外交委員会の公聴会で述べた内容を報じたものだ。同氏は、日本の防衛費について自民党が今回の衆院選の政権公約に「2%以上も念頭に増額を目指します」と盛り込んだことに触れ、「1%から2%にしようとしているのは考え方が変わったからだ」「日本がより大きな役割を果たすとともに大きな脅威にさらされていることを映している」との見解を披露した。
 さらに防衛費の増額が「日本の安全保障や我々の同盟に不可欠だ」と言い切った。日経のこの記事は、岸田首相が総裁選の期間中に「1%などの数字には縛られてはならない」と明言した、とも書いている。
 防衛費2%への道は日米双方の為政者たちがすでに水面下で話し合い、実現に向けて着々と連携しているように思える。

 暮らしが圧迫される未来

 来年度予算の概算要求では、防衛費は今年度当初予算比2.6%増の計5兆4797億円。米国と交渉中のF15戦闘機改修など、金額が未定の「事項要求」が確定すれば、金額は増える。2020年度の名目GDPは536.6兆円。1%突破を皮切りに、国債発行に頼ってでも大幅な軍備拡張に乗り出しかねない怖さがある。
 そのあおりで、国民生活はしわ寄せを受ける。社会保障や教育はもちろん、さまざまな行政サービスに悪影響が及ぶ。経済も安全保障優先で歪む。それでも日本は軍拡に乗り出すのだろうか。

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