ゲスト様

英国から見た北朝鮮の危機と日本 ―個人の体験を通して見えてくるもの

 北朝鮮の核・ミサイル問題が、一向に収束しない気配を見せている。

 7月、北朝鮮は2度にわたって大陸弾道ミサイルを発射し、8月には北海道上空に新型ミサイルを飛ばせた。9月上旬には6度目の核実験を行い、中旬にも弾道ミサイルを発射させたことで、日本、中国、北朝鮮、韓国が位置する東アジア地域の緊張感は高まるばかりだ。

 こうした中、安倍首相は9月28日に衆院を解散し、総選挙(10月10日告示、22日投開票日)に向けて政界が動き出した。「なぜこの時期に総選挙を行うのか」、「大義がない」などの批判が起きる中、首相自身は「北朝鮮の脅威に対して国民の命と平和な暮らしを守り抜く」ための「国難突破解散」(9月25日の記者会見)と説明している。

国連総会の場でトランプ米大統領の発言に対抗するスピーチを行う、北朝鮮のヨンホ外相(CNNのテレビ画面より)

 BBCニュースを始めとする英メディアは、「弱体化した野党」と北朝鮮危機に対する政府の強硬な態度によって上昇した「支持率の高さ」が解散・総選挙の背景にあると分析した。

 有事にこんなのんきなことをするなんて・・・という批判が英国でも出そうだが、今のところ表立った批判は出ていない。というのも、政治の安定化を狙い、英国では議会の会期を5年間に固定する法律があるが、今年4月、メイ首相が高支持率を背景に総選挙の動議を提出し、野党の支持を得て動議は可決。6月に総選挙が実施された。結果は与党・保守党が第1党を維持したものの、大幅に議席を失い、過半数割れとなってしまったのだ。

 

北朝鮮で拘束された記者

 

 筆者が住む英国でも、8月に北朝鮮のミサイルが日本上空を飛行して以来、連日のように北朝鮮報道が続いている。その後、9月に入って6度目の核実験が実施され、東アジア圏の治安・政治情勢についての関心が以前にもましてクローズアップされている。

 北朝鮮がなぜこのような行動に出たのか、今後はどのような動きをすると予想されるのか、北朝鮮の人々の暮らしはどうなっているのかといった事柄について、様々な分析が行われている。

 英国と北朝鮮には国交があり、ロンドン・平壌には公館が置かれているため、情報交換のパイプは公式にあるわけだが、そうは言っても、北朝鮮から大量の情報がオープンに入ってくるわけではない。英国民の認識としては、北朝鮮は外に対して閉じられた国、独裁者によって統治されている国である。

 そんな認識を裏付ける事件が起きたのは、昨年5月だ。北朝鮮で取材中だったBBCの東京特派員ルパート・ウィングフィールド=ヘイズ氏が当局に10時間ほど拘束される事件があった。拘束理由は「北朝鮮の国民と国を中傷した」ためである。

 事情を聞くと、ウィングフィールド=ヘイズ氏の英語でのリポートの一部を間違って解釈したようであった。例えば「険しい表情(=grim-faced)をした関税の係官」と言う表現を北朝鮮の取調官は「北朝鮮人が醜いという意味だ」とし、関税官が「怒鳴った(barked)」という表現を「北朝鮮の国民を犬だと表現した」と決めつけた。「Barked」には、「犬が吠える」という意味も確かにあるのだが。

 ウィングフィールド=ヘイズ氏は誰とも連絡を取ることが許されず、北朝鮮に一人で拘束されたまま、不安な数時間を過ごした。その後一緒に現地入りしていた英国人プロデューサーとともに謝罪の手紙を書かされ、最終的に解放された。その一部始終は、ドキュメンタリー番組としてBBCで放送された。「正当な理由もなく人を拘束する国=北朝鮮」という印象を与える番組となった。

北朝鮮当局から解放された後のルパート・ウィングフィールド=ヘイズさん(左端、BBCのウェブサイトより)

ウィングフィールド=ヘイズ氏が北朝鮮当局に書かされた謝罪文(BBCのウェブサイトより)

 

つかみにくい日本の「空気」

 

 北朝鮮からのミサイル発射や核実験実施という事態に対し、日本国内では「Jアラート」が発信されたことを筆者はフェイスブックの友人たちのタイムラインで知ったが、国外にいると日本の「空気感」がつかみにくかった。

 はたして、日本に住む人は北朝鮮からの危機、つまり、場合によっては北朝鮮から何らかの形で直接・間接的に武力攻撃を受ける可能性や朝鮮半島からの難民の流入にどれほどの切実感を持っているのだろうか?…こう言ったことは、ネットを通じて日本についての情報が入ってくるとは言え、国外にいるとなかなか分からないものだ。

BBCラジオ4の「iPM」のコーナーはダウンロードして聞けるようになっている(ウェブサイトから)

 しかし、9月中旬、日本の現状を非常にリアルに伝えた番組があった。内容を紹介してみたい。

 BBCには「ラジオ4(フォー)」というトーク番組専門のチャンネルがある。このチャンネルのニュース解説番組「PM」(ピーエム)の中に設けられた「iPM」(アイピーエム)というコーナーで、日本で生活をする英国人が日々の思いを語ったのである。

 「iPM」は、司会者が興味深いトピックを抱えたリスナーにインタビューする形を取る。毎週土曜日放送で、筆者はほかの多くのリスナー同様に、このコーナーをポッドキャスト(音のコンテンツが一定の時間に携帯デジタル機器などに自動的に配信される。リスナーは好きな時に耳を傾けることができる)で聞いてきた。

 北朝鮮関連で15分番組の配信があったのは、9月16日。

 北朝鮮からの弾道ミサイルが北海道地方上空を通過し、襟裳岬の東約2,000キロメートルの太平洋上に落下したのは、その前日(日本時間の早朝)である。

 番組の冒頭に出演したのはエジンバラ大学で日韓関係と政治を研究する、ローレン・リチャードソン氏だ。

 「皆さんご存知のように、日本は第2次世界大戦中、非常に攻撃的な役割を果たしました」と述べる。当時のラジオ放送が流れ、日本の真珠湾攻撃によっていかに米軍が打撃を受けたかが伝えられる。「ご存知のように」、「日本は・・・非常に攻撃的な」と言った言葉が、日本人としては耳に刺さる。お世辞抜きの「西洋から見た日本観」である。

 リチャードソン氏は「最終的には日本が同盟国側に負けた」こと、戦後は米国に占領され、2度と戦争を起こさない仕組みを作るため、「平和憲法と作らせました」と説明する。この憲法があるため、日本は他国に開戦することができず、交戦することもできないのだ、と。

 リチャードソン氏が憲法や自衛隊の役割、日本国民の多くが現在の憲法を支持していることなどを話す中で、時折、戦争直後の当時のアナウンサーのナレーションが挟み込まれる。その1つのナレーションは、「原爆の後、これほどの被害が出ました」、だった。こうした声を聞くだけでも、日本人としてつらいものがある。

 ひとしきり、日本と近隣諸国との説明を終えたリチャードソン氏に司会者が聞く。「日本に住んでいたことがあるんですよね」。リチャードソン氏は「6年間、住んでいました」と答える。「日本に戻り、生活したいですか」と聞くと、リチャードソン氏は「多分、もう住みたくはないです・・・特に現在の状況を考えると。日本の上空にこのままミサイルを飛ばさせている状況を米国がいつまでも黙ってみているとは思いませんから」。

 つまり、「今はきな臭い状態から、住みたくない」ということだろう。筆者はこれにどきりとした。こちらで外交や軍事専門家やジャーナリストの話を聞いていると、「具体的な軍事攻撃はない」と言うのが定説だ。しかし、彼女は「危険そうだから、住みたくない」と言っている。今現在、日本に住んでいる人がたくさんいる。自分の家族、知人、友人がたくさんいる。それを思うと、残酷な「本音」に聞こえてしまった。

 

「何かを失った」という日本在住の英国人女性

 

 次に登場したのが山形県酒田市に住む、20代―30代と思われる英国人女性、ニッキさんである。日本に住んで13年だという。地理的には日本の中でも「北朝鮮に近い」場所にいる。インタビューは14日に行われた。

 ニッキさんは、8月29日、北朝鮮による弾道ミサイルが発射された日から、「周囲は何事もなかったように」なったが、「個人的には何かを失った思いです」という。安全性がなくなり、3月に誕生したばかりの娘は「何という世界に生まれてしまったのか」と暗澹たる思いを抱いたという。

 29日朝に何が起きたのか。

 朝6時過ぎ、携帯電話に警報が届いた。「信じられませんでした」。北朝鮮がミサイルを発射した、「防御してください」というメッセージが出ていたからだ。隠れようにも隠れる場所はなく、どうしたらよいか分からなかった。「身体がマヒしたような状態で台所にいました」。自分自身がミサイル攻撃にあうとは思わなかったが、「誰かが攻撃にあうだろう。戦争が始まる」と想像した。次の日は一日中、気分が悪いままだった。

 警報が出ていたのは10分ほどだったが、ニッキさんにはずっと長い時間に感じられた。その日の朝、子供を保育園に連れて行ったニッキさんはほかの母親たちがそれほど衝撃を受けていないことを知った。

 ニッキさんによると、北朝鮮の脅威について、日常的には「あまり会話はないんです」。司会者が「それは驚きました」という。

 メディア報道では北朝鮮がひんぱんに取り上げられ、夫婦の間でも話題になるが、「家の外ではそんな話はしません」とニッキさん。

 「何故?」と聞かれたニッキさんは、「あまり否定的なことは言いたくないけれど」と前置きをしながら、「ここの人たちは地元のことに関心があるからです」という。「人口はかなり高齢者が多いんです。それに合わせた報道になっていて、北朝鮮のことを煽情的に報道するのではなく、事実を伝えることが中心。そんな報道を見て、その後に議論はありません」。

 司会者は「こちらの言葉を言わせようとしているわけではありませんが、おそらく、あなたの周囲の高齢者たちは、あなたとご主人のような若い人よりも将来のことをあまり気にかけていないのでは」と聞く。「全くその通りです」とニッキさんが答える。

 「私は英国人で主人は日本人。国際結婚だし、私はここではほとんど唯一の外国人です」。ニッキさんは、自分の子供たちが将来どこで勉強するだろうかと考えるという。「ここから世界中に旅行にも行ってみたい。だから周囲の人よりは何が起きているかが頭にあります。」

 過去に北朝鮮による核実験が行われた時、それがもし核兵器として使われたら「広島に落とされた原爆の5倍と言われました。今回の核爆弾は17倍だとニュースで知った時、座り込んでしまいました」。

 「どれほどの威力があるか分からないから、最悪の事態を考えてしまいます。もしミサイルが発射されていたら・・・と」。

 

「考えるだけで、恐ろしすぎる」

 

 広島や長崎を訪れたことがあるというニッキさん。原爆が落とされたのは70年以上前だ。周囲にいる人の大部分は70歳未満。当時のことを直接知っている人はほとんどいない。「だから、かえって怖いんです。核爆弾の威力がどれぐらいか…考えるだけで、恐ろしすぎます」。ニッキさんは少し笑った。「言葉にできません。世界が終わりになる…自分たちは本当に前線にいると思っています」。

 司会者は、ニッキさんに日本がどうしたらいいと思うかを聞く。「地理的に近いので侵入されてしまうのではと思ったりします。身を守る必要があると思うけど・・・」。

 物事が日本ではゆっくりと進む、とニッキさん。「グループの中で物事を決めてそれが実行に移されるまでに時間がかかります」。その後、ニッキさんの考えはうまくまとまらないようだった。「何かするべきです。私は平和主義者だから、軍事的行動で解決するべきとは思わないのだけれど」――。

 日本で、どれぐらいの人がニッキさんのような思いを抱いているのかは分からない。この番組は日本を代表する人としてニッキさんを選んだわけではない。あくまでも「一人のリスナーの声」なのである。

 多分、ニッキさんに日々の懸念を家庭の外でも話せる人がいたら、少しは心配する気持ちが和らぐかもしれない。

 いずれにしても、日本に住む、ある一人の女性の生の声がラジオを通して、ここ英国にまで伝わってきた。日本で今生きることへの懸念、恐れ、迷いがよく分かる番組だった。新聞記事で専門家の分析をたくさん読むよりも、はるかに良く、かつストレートに「空気」が分かった気がした。


(参考)

  1. 安倍首相の解散総選挙を報じるBBCのニュース
  2. 北朝鮮で受けた10時間の拘束と尋問――BBC記者手記
  3. 北朝鮮のミサイルの下で、日本で生きる(Living in Japan under North Korea’s missiles)

小林 恭子

在英ジャーナリスト

1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。
外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。
英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。
「新聞研究」(日本新聞協会)、「GALAC」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。
著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『チャーチルファクター』(共訳、プレジデント社)、『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(中公新書ラクレ)

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