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「時は春、日は朝、朝は七時…」

 独立メディア塾 編集部

 ロバート・ブラウニング(1812年5月7日~ 1889年12月12日)は、イギリスの詩人。上田敏の訳詩集『海潮音』(1905年)の中の「春の朝(はるのあした)」が有名。

 殺人現場で歌われた少女の無心の歌

 ロバート・ブラウニングの「春の朝」は「ピパが通る」という1幕劇の中の歌。「ブラウニング詩集 イギリス詩人選6」の編者、富士川義之氏によると、少女ピパが年に1度の休暇である元日の朝、製紙工場主の邸宅の前で歌った無心の歌。邸内では前夜、主人が妻とその愛人によって殺害されていた。少女の歌で良心の呵責に責められ、犯人たちは自害した…。
以下は上田敏の訳による「春の朝」

 時は春、
 日は朝(あした)、
 朝は七時(ななとき)、
 片岡に露みちて、  揚雲雀(あげひばり)なのりいで、
 蝸牛(かたつむり)枝に這ひ、
 神、そらに知ろしめす。
 すべて世は事も無し。

 富士川はこの最後の2行ほど「名訳中の名訳であるが」と断りながら「ほとんど脳天気とも呼べる楽天思想を表す典型例として、賛否両論を招き寄せたものはない」と解説している。富士川は学生だった40年以上前(2005年時点で)は「臆面もなくプチブル的な自己満足を表明した詩句として、まったく無視されるか、軽蔑されたものである」と書いている。富士川編(訳)は以下の通り。

 『ピパが通る』より
 〔外からピパの歌声が聞こえる―〕
 時は春
 春の朝です。
 朝は七時、
 丘辺には真珠の露が光っています。
 雲雀は空を舞い、
 かたつむりは茨(いばら)を這(は)う。
 神様は天にいます―
 天下泰平、天下泰平! 

 富士川の解説によると、可憐な少女ピパが年に一度の休暇である元日の朝、丘の上の邸宅の前で無心に歌を歌う。邸内では前夜、主人のルカが妻とその愛人によって殺害されていた。ピパの歌を聞いた愛人は良心の呵責に責められて自害、妻も後を追う。この2行はピパの無心さを表しており、ブラウニングの楽天主義的な人生観のストレートな表明ではないとする解釈が近年は有力だという。
 ブラウニングが得意としたのは「劇的独白」といわれる詩的技法で、様々な人間の声を引き出す技法は芥川龍之介の「藪の中」(黒沢明監督の「羅生門」)などを生み出すのに影響を与えた、と言われる。


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