誰もやっていないことを、やってきた。これからも、やり続ける。 9/9
 松尾 英里子 / 白鳥 美子
神社婚のためにデザインしたウェディングドレス
1965年2月22日 日本初となるブライダルコレクション
「みんながあんまりやっていないこと、だけど、『これは大事なことだ』と思うことにずっと力を注いできた」と、これまでを振り返る桂さん。
「母の生き方が、そうでした。それを引き継いだっていうところもあるんでしょうね」
ご近所の方への内職の世話から始まり、教えを求める人たちの増加を受けて母親が小岩につくった洋裁の塾は、2000人を超える生徒が通うほどの大規模の学校法人になった。そこで講師を務めていた桂さんが、生徒たちの卒業制作としてウェディングドレスづくりを決めたことが、桂さんのその後の道を決めた。
「年中周りに人がいて、何かしら困っていることがあったら助けてあげたいって思うでしょう。それを当たり前にやってきただけで、みなさんが思うほど偉い人間じゃないのよ」
桂さんが初めて赤坂にブライダルのお店を開いた頃と違い、今は、ウェディングドレスのお店がたくさんある。
「だから、うちじゃないとできないこと、うちがやるべきことを大事にしたい」
その一つが、神社で行う神前式用のドレスのデザインだ。
「今は、神社での結婚式は全体の17%に減っている。神社というのは、日本人にとって大切な存在なのに、それではあまりにももったいない」
その理由の一つに、神社でやるには着物を着なければならないという思い込みがある。現代人にとっては着慣れない上に、着付けにも時間がかかる。着物ではなくドレスを着たいという憧れを持つ女性も多いだろう。
「じゃあ、神社に似合うウェディングドレスをつくりましょう」という発想で動き出したのが桂さんだ。デザインを考え、ドレスをつくり、明治記念館を巻き込んでショーを行った。かかる費用をそれぞれが分担するという、共催で行うショーは、桂さんにとっても今回が初めてのことだった。古い考えにとらわれて「神社はドレスでショーを行うような場所じゃない」と頑なに言い張っていては、文化は発展しない。コレと思い立ったことは、自身で連絡をとり、訪れて説得に当たる。それはブライダルを志した60年前も今も変わらない。
「ほんとうに大事なこと」の実現のために、まだまだやりたいことがいっぱいあるという桂さん。
「いろんなことに出会って、面白い人生。やり残したことがないようにしたいと思います」
1999年 東洋人で初めてローマオートクチュール協会の正会員となり第一回ローマコレクション開催
■桂由美さん プロフィール
東京生まれ。共立女子大学卒業後フランスに留学。1965年、日本初のブライダルファッションデザイナーとして活動を開始し、同年日本初のブライダル専門店をオープン。パリやNYをはじめ世界30か所以上の都市でショーを開催し「ブライダルの伝道師」とも称される。自身の名から命名された「ユミライン」を筆頭に、他に類を見ないウエディングドレスは世界中の花嫁を魅了し続けている。1993年に外務大臣表彰、2019年には文化庁長官表彰を受賞。
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