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習うより慣れろ
「たくさん恥をかきました」 9/10

  松尾 英里子 / 白鳥 美子

 英語には自信があった北野さんだが、国際会議でのスピーディーな英語でのやり取りには、当初、ついていけなかった。
 「何を議論しているのか、さっぱりわからないんです」
 それなのに、議題について各国の意見を聞きたいと順番が回ってくる。内容が分からないから「Yes」も「No」も言えない。「No comment」と言うしかなかったが、サイエンティストの会議でこんな答えはないよな、と大いに恥じた。
 だが、もともと英語力のある北野さんは、次第に聞き取れるようになり、積極的に議論にも参加するようになっていった。
 あるとき、指名を受けた北野さんは、その話題が「専門外」であったため、それを伝えるべくこう言った。
 「Thank you, Mr. Chairman. Although I am outstanding…」
 途端に、会場中がゲラゲラと大笑いに包まれた。
 「outstanding」をout stand、つまり、外側に立つというイメージで「専門外」という意味だと思い込んでいたが、実は「outstanding」の意味は「並外れた」「著名な」という意味だった。つまり、北野さんは、堂々と「私は並外れた素晴らしい人間ですが…」と自分で言ってしまったのだ。
 「あの時の恥ずかしさは、いまだに覚えています」
 だけど、“習うより慣れろ”で、たくさんの恥を乗り越えた北野さんは、十数年間にわたって専門家会議に出席を重ね、OECD加盟29か国のうち5か国(イタリア、ドイツ、イギリス、フランス、日本)の代表で構成される「アップデーティング・パネル」のパネルメンバーにも後に選ばれている。




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