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連載 あなたの地方自治
第八回 市長も、議会も、市民と結びつく

中央学院大学教授  福嶋 浩彦

●二元代表制とは?

 市では、市民の代表として市長と市議会議員の両方を選挙で選ぶ。これを「二元代表制」と言う。
 国では、国民の代表として国会議員だけを選挙で選ぶ。そして、国会で多数を占めた政党が与党となり、総理大臣を出し内閣をつくる。これを「議院内閣制」と言う。
 内閣は、与党と協議し予算案や法案を作るが、市長は、議会ではなく市民によって選ばれたのだから、市民と相談しながら予算案や条例案を作り、議会へ提案する。当然、議会も市民によって選ばれたのだから、市民の意見を聞きながら議論し、予算案や条例案を可決、否決、修正する。
 ただ実際には、国の真似をして市長と議会「与党」との協議が最優先になっている自治体も多い。二元代表制であるのに議院内閣制の真似が続くと、市民には見えない密室の協議で物事が決まってしまうようになる。

●出来てからの報告でなく、過程を公開

 千葉県我孫子市は2006年度予算案から、その作成過程を公開することにした。予算は1年間の行政活動の内容を決める重要なものだ。市長を務めていた私は、予算案が出来てから市民へ報告するのではなく、作成過程から公開し、市民と意見交換しながら作りたいと考えた。
 予算案作成は、市役所の各課が「来年度、こういう事業をやりたい」と予算要求するところから始まる。まず、この各課の予算要求がそろった段階で、その内容をホームページと行政サービスセンターで公開した。

●予算案の査定もその都度公表

 しかし、各課の要求をすべて実現する財源はない。2006年度予算で、各課から出された新規事業の予算要求は、205事業で総額30億2千万円。これに対し、新しい事業に回せる財源は18億円程度。予算全体は300億円以上あっても、介護サービス、市立小中学校の運営、生活保護など継続事業の予算が大半を占めているのだ。
 そこで、企画調整室(当時)で2回、市長が2回、計4回の査定を行って絞り込み、最終的には「駅前市民活動拠点の整備」「あびこエコ農産物の認証制度」など149の新事業を盛り込んだ2006年度予算案が出来上がった。
 この4回の査定結果もその都度公開し、市民の意見(パブリックコメント)を募集した。

●自分の要望から出発し、まちを考える

 予算案の作成過程を公開すると、市民は、自分の要望が実現するか(予算が付くか)だけでなく、自分の要望と他の市民の要望(市の他の事業)の優先順位がどう判断されるかを見ることになる。つまり、市民は自分の要望から出発しながら、まちづくり全体を考えることになる。
 ただ、2006年度予算案で市民からのパブリックコメントは23件。全部に丁寧に答えたが、個別事業の充実を求める要望が主で、まちづくりの議論には届かなかった。いきなり100%の成果は出ないとしても、こうした制度を使いこなせるよう、行政も市民も経験を積み重ねてほしい。

●互いに自治の力を育てる

 一方、自治体議会はどのように市民と向き合うのか。各議員が自分の支持者から意見を聞くだけでなく、議会自体への市民参加が求められている。
 例えば、市民が地方自治法に基づき請願(市民からの要望や提言)を議会に提出した場合、市民の代表者がその請願を審査する議会の委員会に出席し、請願の趣旨を説明。議員から質問があれば、市民が答える。こうした取り組みは、全国の約3分の1の自治体議会に広がっている。
 また、鳥取県米子市議会は請願などの審査結果を市民へ通知する際、採択・不採択の結論だけでなく、議会での議論を踏まえ、その理由を付している。さらに、不採択理由に対し市民が質問状を出したところ、議長から正式回答があった。
 市民と議会が正面から向き合ってキャッチボールする意味は大きいと考える。互いに未熟なところはあったとしても、それを通し自治力を育てることが出来る。
 こうして市長も議会も市民としっかり結びつき、それを力にして競い合う。そうすれば二元代表制の良さが引き出されるし、自治が豊かになるだろう。

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