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コロナと「新・地方の時代」(下)

中央学院大学教授  福嶋 浩彦

  地方財政さらに国依存に?

 前号では、コロナ禍の中で進む「リモートワーク移住」が東京一極集中を崩し、「新・地方の時代」を拓く可能性について述べた。それには自治体が自立し、魅力を高める必要があることも指摘した。
 ただ、コロナ禍のもう一つの側面として、自治体の自立を逆に後退させる危険性がある。今号では、自治体財政の自立を原点に帰って考えたい。
 総務省によれば、コロナによる経済の落ち込みで2020年度の地方税収は約3兆6千億円以上の減となり、21年度の全国自治体の財源不足は全体で10兆3千億円近くになるという。
 自治体はますます、地方創生臨時交付金をはじめ国のお金に頼る傾向が強まりそうだ。しかし、国頼みでは財政難は解決しない。自治体自身の創意工夫があってこそ、財政難を乗り越えていける。

 

  自治体の創意工夫こそ大事

 コロナ禍の前、鳴り物入りで国による地方創生が始まった時、こんなことがあった。
 A町ではユニークな「まちごと児童館」構想を進めていた。町のいたるところに子どもの居場所を作ろうという計画で、個人商店の一角や会社の余裕スペースなどを無償提供してもらい、居場所のスタッフは町民ボランティアが担う。そして、おもちゃや児童本など、備品の購入費だけ、地方創生の交付金を申請した。
 ところが国から、物品購入のみの事業は創意工夫がないから不可と言われた。場所の賃貸料やスタッフ人件費をセットで申請すれば、増額して可になるという。町の創意工夫が裏目に出たのだ。賃貸料、賃金を出すなら、もっと簡単に場所も人も確保できる。だが、一度これらを出したら、交付金期間が終わっても町の財源でずっと出さねばならない。

 

  「一括交付金」の復活を

 国が審査し、お眼鏡にかなったところに交付金を出す地方創生ではなく、自治体の判断で自由に使える「一括交付金」が必要だ。中小企業の育成、農業の再生、子育て支援などそれぞれの分野ごとにまとめて出し、自治体の創意工夫と自己決定を保障する。
 一括交付金は、民主党政権の時に一部で導入されたが、施設建設などのハード事業分野に限定されていた。その後、政権交代で廃止されてしまったが、求められていたのは、全ての分野を対象にした全面展開だった。
 自治体の意識改革も不可欠だ。私が消費者庁長官だった時(2010~12年)、地方への財政支援について「これからは消費者行政などソフト事業の分野でも、自治体が自由に使える財源の保障が大切だ」と言うと、多くの自治体の消費者行政担当者から「それは困る。国の指示がないと消費者行政にお金が来なくなる」と言われた。

 

  「自分で責任を持ちたい」が自治

 しかし、それまで後発の消費者行政は、国が使途を定めた「ヒモ付き」補助金や交付金の獲得では後れを取っていた。すべてのヒモが無くなるのは、他に振り向けられていた予算を消費者行政へ回すチャンスのはずだ。
 ただし担当者は、従来のように「国の指示だから」「補助金があって有利だから」と説明して予算を確保するのではなく、「この事業は住民にとって必要だから」と財政当局を説得しなければならない。ここから逃げていないだろうか。
 首長や議会も、国の指示だから防災に使う、学校に使う、消費者行政に使う、と住民に説明する方が楽だ。自分の判断で使い方を決めると、自らが説明責任を果たさねばならない。自治とは「自分で責任を取りたい」ということなのだ。

 

  「10万円給付」も自治体へ任せたら

 全ての自治体で昨年、コロナ禍対策として住民への10万円一律給付が行われた。予算は全額を国が負担し、総額は12兆7千3百億円だ。一律給付にはバラマキ批判もあったが、困窮者への支援を急ぐには一律給付しかないという説明がなされた。
 であれば、人口割りで財源を自治体に配り、一律給付するかどうかも含めて自治体の創意工夫に任せたら良かったのではないか。非常時の一括交付金とも言える。
 そうすれば、市民へのアンテナの高い自治体は、国よりずっと早く、困窮している人に集中して支援金を届けられたはずだ。自治体によって差は出るが、それを住民が評価し、次の選挙での選択を含め身近な自治体の改革につなげられる。

 

  税源移譲―3つの改革―

 非常時はともかく、一括交付金はゴールではない。あくまで当面の措置であり、過渡的な政策だ。
 本来は、①自治体を縛る補助金や交付金の原則廃止、②その分を国から地方へ税源移譲して自治体の自由な財源の確保、③税源は自治体によって格差があるので、分かりやすい基準での自治体間の再配分(地方交付税改革)―という3つの改革を一体的に行う必要がある。
 これらは小泉政権の時、いわゆる「三位一体の改革」として進められた。国から地方への税源移譲は約3兆円。2007年度から地方税である個人住民税所得割を一律10%(従来は都道府県4%、市区町村6%)にして約3兆円を増税、かわりに国の所得税を約3兆円減税する方法で行われた。

 

  自治体財政の自立こそ

 しかし、小泉政権の「三位一体の改革」は、税源移譲だけは評価できたものの、自治体を縛る補助金などの構造は補助金の額が減ってもそのまま残り、自治体の自立にはつながらなかった。しかも、国の支出削減が優先され、地方交付税は中身の改革が見えないまま、総額が5兆1千万円も減らされ、自治体財政が苦しくなるだけで終わった。
 それでも、補助金削減・税源移譲・地方交付税改革を一体で実施するという考え方は正しい。
 「新・地方の時代」は、こうした自治体財政の自立改革なしには絵に描いた餅だ。このことを肝に銘じておきたい。

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