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EU、「東」と「西」の衝突

在英ジャーナリスト  小林 恭子

 英国が抜けて、加盟国が27カ国となった欧州連合(EU)。
 ここ10年ほどを振り返ると、いくつかの不協和音が聞こえてくる。
 2009年、ギリシャの財政赤字の実態が判明したことで、EUの共通通貨ユーロの信用が低下し、「ユーロ危機」が発生したことを覚えていらっしゃるでしょうか。ギリシャは国家財政が破綻し、国債が暴落。翌年にはアイルランドが財政破綻し、ポルトガル、スペイン、イタリアにも不安が拡大した。
 EUはユーロを緊急に救わなければならなくなった。ユーロ経済圏には入っていなかった英国、国際通貨基金(IMF)なども参加して巨額の財政支援策を繰り出した。

  ギリシャ救済でまず「南北」が対立

 この時、世界中に可視化されたのは「北と南の対立」だった。ギリシャ支援を決めるまでには交渉が難航し、「財政規律の順守」を先に求めるドイツ、オランダなどユーロ圏の北に属する国とギリシャとの間でし烈な戦いとなった。
 アイルランドは「南」ではないものの、ユーロ危機以前から、EUの北部にあるドイツ、フランス、オランダなどと、ポルトガル、スペイン、ギリシャなど南部の国との成長率の違いが指摘されてきた。
 ドイツやオランダでは、「なぜ自分たちが一生懸命働いて納めた税金をギリシャのために使わなければならないのか」と不公平感を表明する人が出てきた。「自分たちで作った債務の責任の一端をなぜ私たちが取らなければならないのか」と。
 EU圏をいわば一つの大きな家族して扱うのが、単一市場を含めたEUの仕組みだ。EU域内で困っている人がいたら「困っている時は、お互い様だよ。はい、これを使いなさい」といって、自分の税金を差し出すことが要求される。
 しかし、「どうにも納得がいかない」と感じたドイツやオランダの国民の感情はどうなるのだろう。
 経済の成長レベルや財政管理が異なる国が一緒になったことで、様々なひずみが生まれていることが如実となった。

  難民流入で新たに東西の亀裂

 ユーロ危機でギリシャ、ポルトガル、スペインなどが「問題児」だったとすれば、近年、その役に相当するようになったのが、ハンガリー、ポーランドなどの旧東欧諸国だ。今度は「東と西」の対立ともいえる。
 EUの主要国ドイツ、フランス、オランダは現在のEUにつながる「欧州石炭鉄鋼共同体」(1951年)からの統合仲間(当時ドイツは「西ドイツ」、ほかにベルギー、イタリア、ルクセンブルク)だ。いずれの国も西欧が自負し、EUにも引き継がれた「民主主義」、「法の支配」、「言論の自由」の原則を体現する。
 わざわざ口に出す必要もないほどの同様の価値観を共有する「西側」の国の集まりであったEUが、元共産圏に属していた東欧諸国を中心とした10か国を新加盟国として受け入れたのが、2004年。新規加盟以前は15か国のEUは一気に拡大した。
 2015年、世界中からやってきた大量難民の到来でEUは危機状態となった。年間100万人規模の難民流入に対し、その最前線となったギリシャやイタリアが悲鳴を上げだした。
 ハンガリーを通ってドイツなどに向かう難民に対し、ハンガリー当局は鉄条網を設置する、警察を使って追い返すなどの対策を講じた。その様子は世界中に「非人間的な扱い」として報道された。
 EUは難民ら16万人を加盟国で分担して受け入れる措置を多数決で決定したが、ハンガリー、ポーランド、チェコの東欧3カ国は治安上の理由などから拒否。昨年4月、EU司法裁判所は3カ国の拒否が「EU法に基づく義務を果たしていない」とする判断を出した。

  コロナ復興基金に拒否権

 昨年7月、EUは新型コロナウイルスの拡大で打撃を受けた経済の再建を図る大型復興基金の拠出を計画し、一旦は全加盟国の合意を得た。しかし、執行を目前に控えた12月、ハンガリーとポーランドが拒否権を発動してしまった。
 この時EU議長国を務めていたドイツと欧州議会の交渉担当者が、「法の支配」の原則に反する加盟国には基金の資金拠出を差し止めるという方針を決めたからだ。
 ハンガリーもポーランドも強権政治が続いており、報道の自由や司法の独立が脅かされていると言われている。もし、法の支配の条件が付けられた場合、自国が受け取る基金の割合が減ることを懸念した。
 最終的には、ドイツの仲介により、妥協が成立する。法の支配を重視する方針には変更がないが、加盟国がEU司法裁判所に異議を申し立てている間は資金停止などの措置を保留することになった。

  「共産主義より危険なLGBT」と大統領

 ポーランドでは右派与党「法と正義」による政権下で、司法や報道への介入が行われている。昨年10月には憲法裁判所が人工中絶を事実上禁止する判断を示し、大規模な抗議デモが発生した。
 性的少数者(LGBT)への差別的対応でも両国は同様の状況にある。
 ハンガリーでは昨年末、養子縁組ができるのは結婚したカップルのみで、同性カップルが養子をとることを事実上禁止する法律を成立させた。オルバーン首相は同性愛者が登場する、ある児童書に言及し、同性愛者は「子供に近寄るべきではない」と発言している。
 ポーランドのドゥダ大統領は昨年6月の総選挙中、LGBTは「共産主義よりも危険なイデオロギー」と述べ、「キリスト教に基づく伝統的な家族観を守るため」教育機関でLGBTについて教えることを禁止する法案を実現したいと語っている。
 ポーランド国内では「LGBTのいない地区」宣言をする自治体も増えている。
 EUはこの宣言をした6つの自治体に対し、補助金の支給を拒否すると発表している。「EUの価値観、基本的人権を尊重すべき」(欧州委員会のダッリ平等担当委員、ツイッターにて)。

 EUの基本理念である自由、民主主義、人権の尊重は「言わずもがな」のはずであった。また、「政教分離」も当然視されてきたが、ハンガリーやポーランドの現政権は「キリスト教に基づく価値観」の重視を公言している。
 大激震と思われた英国の離脱が終わった今、EUはその存在理由ともいえる基本理念をどう浸透させるかに取り組まざるを得なくなった。「言わずもがな」では回らなくなったのである。 

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