ゲスト様

2020年6月号

連載 あなたの地方自治
第五回 コロナ後、対話の社会を作れるか

中央学院大学教授 福嶋 浩彦

●人口減少時代は「あれか、これか」

 自治体は、住民の要求を「あれもこれも」実現しようとしてきた。一方、住民は同じ要求の人が集まり声を上げた。公共施設で言えば、図書館充実を求める人、体育館改修を求める人、文化ホール建設を求める人、それぞれで集まりそれぞれが行政へ要望してきた。
 しかし、人口減少の中で持続可能な社会をつくるには、「あれかこれか」の選択が大事だ。図書館、体育館、文化ホールをそれぞれ要求する人、どの施設も利用しないが各施設に使う税金を払う人(数はこの人たちが圧倒的に多い)がみんなで話し、何を選択するか、課題解決の新しい方法はないか、知恵を出し合う必要がある。

●無作為抽出された住民で議論

 自治体で今、こうした多様な住民が対話する方法として注目されるのが「自分ごと化会議」だ。住民全体から無作為抽出された人たちで議論する。現在までに71自治体で145回行われ、無作為抽出による参加者は約1万人になる。
 その中から7つの自治体(北海道清水町、千葉県富津市、島根県松江市、福岡県大刀洗町ほか)の住民20人が参加し、今年4月29日、「コロナによって変化する社会との付き合い方」をテーマにした「第1回オンライン自分ごと化会議」が開かれた。テレビ会議システムzoomを利用し、民間シンクタンク構想日本が主催。専門家や自治体関係者などを加えた計35人が3時間にわたって話し合った(写真はzoomの画面=「構想日本」提供)。

●コロナ社会の息苦しさ

 会議ではまず、政府の専門家会議のメンバーでもある川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長が、新型コロナウイルスの特質や感染の現状を解説。
 参加者からは、「県から自粛要請はないのに、周りから白い目で見られるからと飲食店がテイクアウトのみに切り替えた」「子どもに家の前で遊んだらと言っても、子どもが恐怖を感じ玄関から出たがらない」などの発言があり、高校生は「同じ学校の生徒が感染したというデマが、SNSに名前入りで流された」と報告した。
 一方、「自粛で結果的に環境への負荷が減らせた」「リモートワークも意外に使えることが分かった」など、コロナ後の社会づくりへ向けた意見も出された。

●「正義」が一つの社会は危ない

 新型コロナの経験を今後のより良い社会づくりへつなげるには、感染が少し落ち着いた段階で、マイナス面を冷静に振り返っておく必要がある。
 この間、「コロナ対策をもっと徹底的に」という一方向の声が社会を覆ったように感じる。「感染リスクを下げる」が社会の中の唯一の「正義」になり、自粛競争、相互監視社会が生み出された。
 これに対しオンライン会議では、多くのがん末期の患者の訪問診療をする医師が、「今まで通り続けないと命が守れない。コロナ対策を無視して3密の中でも診療をする」と話した。
 しかし社会の大多数の人たちは、行動基準を行政やテレビに登場する専門家に求め、自分で考える力を失ったように見える。

●考える力を取り戻す

 コロナではないが、私は東日本大震災の時、消費者庁長官を務めていて、原発事故のもと食の安全に取り組んだ。
 農水省や厚労省は、放射能が政府の定めた基準値以下なら安全という立場であったが、消費者庁は少し違った。「放射能の場合、基準値以下でも発がんなどのリスクは、非常に小さいがゼロではない。どの程度小さければ受け入れるか、最終的には消費者一人一人の判断」という立場だった。しかし、国民からは「消費者庁が安全か安全でないか、はっきり言って欲しい」と迫られた。
 私たちが自分で考える力を取り戻すには、多様な考えを持つ人が自由に話し合う場が重要だ。オンライン市民会議は、異なる状況にいる住民が自治体を越えて話し、いろいろな意見に接したところに意義があったと考える。
 コロナ後、私たちは対話を基本にした社会を作れるだろうか。

福嶋 浩彦

中央学院大学教授

中央学院大学教授・ 元我孫子市長・ 元消費者庁長官。鳥取県生まれ、63歳。
1995年、38歳で千葉県我孫子市長に。3期12年務め、その間、市民自治を理念とした自治体改革を推進し、全ての市補助金の市民審査、常設型住民投票条例の制定、市民債による自然環境保全、提案型公共サービス民営化などを実現した。全国青年市長会会長。福祉自治体ユニット代表幹事。
市長退任後は中央¬学院大学教授。2010年から消費者庁長官。東日本大震災の原発事故のもと、自治体と連携し食品の安全確保に取り組む。2年間の任期を終え大学に復帰。著書に、『最先端の自治がまちを変える』(朝陽会)、『市¬民自治』(ディスカヴァー携書)、『公会計改革』(共著・日経新聞社)、『市民自治の可能性』(ぎょうせい)など。

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