ゲスト様

2020年11月号

連載 あなたの地方自治
第十回 民間と行政の関係を問い直す

中央学院大学教授 福嶋 浩彦

●「質」に民間ノウハウ活かす

 「提案型公共サービス民営化制度」を全国で最初に実施したのは、私が市長を務めていた千葉県我孫子市だ。
 我孫子市は2006年5月、1,131あった市の全ての事業の内容と予算(人件費含む)を公開。民間から「私の会社(団体)のほうが市役所より質の良いサービスを提供できる」という民営化提案を募集した。
 完全な民間事業への移行だけでなく、委託(市から民間へ業務委託)、指定管理(施設管理を包括的に民間が代行)、PFI(Private Finance Initiative,民間資金とノウハウの活用)など様々な手法を使ってもらう。
 出された提案は、外部の専門家、サービスの受け手の市民、行政の担当部局の3者で審査した。

●ママパパ教室は助産師会へ

 私の市長在任中(2007年まで)に、79件の提案があり、条件付きを含め34件の採用を決めた。
 市の保健センターが行う出産・育児の「ママパパ教室」には、地域の助産師会から、企画と運営を全て行うという提案があった。
 子育ち・子育て環境の整備は我孫子市が最も力を入れている分野で、首都圏の都市部にありながら保育園の待機児童はゼロだ。当然、このママパパ教室も充実した内容であると自負していた。
 しかし赤ちゃんの出産・育児となると、保健センターの保健師よりも助産師のほうがはるかにスペシャリストで、多くの臨床経験を持っている。提案書を審査して確実に質が高まると判断し、2007年から助産師会に任せた。実際に一層充実した教室になり、市民から大変好評だ。

●行政の仕事を民間の手で奪い取る

 実は、助産師会では以前から市のママパパ教室を見て、「市の保健師も頑張っているけど、本当なら自分たちがやったほうがずっと良い教室になる」と思っていたそうだ。それなのに市が抱え込んできたのだ。
 提案型民営化は、<行政が手放したいもの>ではなく、<民間がやりたいもの>を民間に移す仕組みだ。市役所の仕事をすべて住民の前にさらして、民間の手で行政の仕事を奪い取ってもらう。

●質の「ものさし」も民間から

 ところで、質を測る「ものさし」はいろいろある。例えば、駅前行政サービスセンターでの各種証明書の発行は、通勤者などが多く利用するので、一秒でも速い発行が大事だ。しかし、高齢化が進んだ住宅地にある行政サービスセンターでは、スピードよりも高齢者が迷わず、不安やストレスを感じることなく、必要な証明書を手に入れることが大事になる。求められる質は違う。
 この質を測る「ものさし」を行政が一方的に決めて、質の競争をしてもあまり意味がない。「ものさし」自体を民間の発想で自由に提案してもらうことが大切だと考える。

●行政の都合でなく、市民を軸に

 今日、民間委託をはじめ行政のアウトソーシングは日常的に行われている。しかし、民間が得意なものを民間に担ってもらっているというより、行政が苦手なものを、行政の勝手な都合(コスト削減)で民間に押し付けている。
文化ホールの管理運営を指定管理者に任せると、年間コストが7割に下がる。これはどの自治体でもよくある「効果」だ。
 しかし、民間のノウハウのおかげで有名アーティストの公演が増えた、アマチュア団体が使いやすくなった、そして管理の効率化でコストが下がった―というケースはまれだ。
 指定管理者の職員給料が、行政職員の給料より3割低いからコストが7割になっただけ、ということが圧倒的に多い。役所の都合だけが横行していて、市民サービス向上にはつながらない。
 徹底して「質」にこだわる提案型民営化は、コスト削減一辺倒の行政を見直すことになる。もちろん費用対効果や効率性もしっかり審査する。それも含めて質だが、違うのは行政の都合でなく、常に市民を軸に考えていることだ。

福嶋 浩彦

中央学院大学教授

中央学院大学教授・ 元我孫子市長・ 元消費者庁長官。鳥取県生まれ、63歳。
1995年、38歳で千葉県我孫子市長に。3期12年務め、その間、市民自治を理念とした自治体改革を推進し、全ての市補助金の市民審査、常設型住民投票条例の制定、市民債による自然環境保全、提案型公共サービス民営化などを実現した。全国青年市長会会長。福祉自治体ユニット代表幹事。
市長退任後は中央学院大学教授。2010年から消費者庁長官。東日本大震災の原発事故のもと、自治体と連携し食品の安全確保に取り組む。2年間の任期を終え大学に復帰。著書に、『最先端の自治がまちを変える』(朝陽会)、『市民自治』(ディスカヴァー携書)、『公会計改革』(共著・日経新聞社)、『市民自治の可能性』(ぎょうせい)など。

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