連載 あなたの地方自治
第九回 住民投票は自治の基本
中央学院大学教授  福嶋 浩彦
●大阪都構想、決めるのは市民
2020年11月1日、いわゆる「大阪都構想」の住民投票が行われる。大阪市を廃止し、代わりに<大阪府○○区>というふうに4つの区を置く。この都構想実施の決定権を持つのは、大阪市長でも市議会でもなく、220万人の大阪市民だ。大阪都構想の住民投票は法律によって定められているが、さらに自治体は、自らの条例に基づき重要政策について住民投票を行うことができる。
近年では、学校へのエアコン設置(埼玉県所沢市)、新庁舎建設の中止(長崎県壱岐市)、陸上自衛隊の配備(沖縄県与那国町)、「TSUTAYA図書館」計画の撤回(愛知県小牧市)などが住民投票の結果を踏まえ決まった。
●議会が決めるべき??
一方、「選挙で選ばれた議員が決めるべき」という主張も根強い。今年6月には茨城県の東海第2原発をめぐる県民投票条例案が、9月には静岡市庁舎の移転新築をめぐる住民投票条例案が、それぞれ議会で否決された。多数の住民署名によって請求されたものだったが、議会は通らなかった。10月には島根県松江市でも、新庁舎をめぐる住民投票条例案が市議会で審議される。確かに自治体では、首長(市区町村長や知事)と議員を選挙で選ぶ。しかし、その代表としての性格は、国会議員と異なっている。
国民は国会議員をリコールしたり、国会を解散させたりできないが、自治体の住民は、首長や議員を住民投票でリコールできるし、議会を解散させることもできる。また、国民が自分達で法案を作り国会に提案することはできないが、自治体では住民自らが条例案を作り、議会へ提案できる。自治体では全てを首長や議員に委ねていないのである。
●首長や議会の意思を是正する
条例による住民投票は、首長や議会の意思と住民の意思が異なると住民が感じたとき、主権者としての意思を投票によって示し、首長や議会の意思を是正する大切な制度である。しかし、何か問題が起きてからその問題の是非を問う住民投票を求めると、とくに議会の意思に住民が異議を唱えるようなケースでは、条例案は否決されることが多い。
このため、あらかじめ住民投票の手続きを条例で定め、いざというとき首長や議会が拒否できないようにしておくのが常設型(実施必至型)だ。
千葉県我孫子市は私が市長だった2004年、常設型「市民投票条例」を制定した。投票資格者(18歳以上、永住外国人を含む)の8分の1の署名により請求があった場合、必ず住民投票を実施する。
そして、もし住民投票の結果が市長や議会の意思と違ったら、市長や議会は投票結果を尊重し、自らの意思を変えて決定しなければならない。そういう尊重義務を条例で課している。
●投票が対立を深めることも
住民投票の大前提は、住民同士の十分な対話だ。例えば、賛成、反対、双方がパネリストになってシンポジウムを開き徹底議論する。それを多くの住民が聞いて、またいろいろな場で話し合う。そして最後は多数決で決めることをお互いが納得して住民投票を行う。こんな取り組みが出来れば民主主義は深まる。
しかし逆に、賛成と反対のグループは互いに議論どころか口もきかない。こんな状況の中、住民投票の多数決で決着をつけても、不審や対立が深まる。住民投票は、民主主義の手段ではなく、自分の主張を通すための政治的手段になってしまう。
●熟議が支える住民投票
従来型の「数で押し通す民主主義」ではなく、「対話の民主主義」が求められる。多様な人の対話で合意を作り出し、社会を改革していきたい。もちろん多数決は必要だが、民主主義の本質ではなく道具だ。単に数で押し切ろうとする住民投票は、議員の数で条例が否決されてしまう。
しかし熟議を経ての住民投票は、民主主義を変え、皆が地域の課題を「自分ごと化」するのに役立つ。そこから、また新たな対話が生まれるだろう。
将来、住民税を上げてサービスを増やすか、サービスを我慢して減税するか、住民投票で決めることがあるかもしれない。そこまで成熟すれば、自治も本物になる。