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コロナと「新・地方の時代」(上)

中央学院大学教授  福嶋 浩彦

  東京の人口減少!?

 新型コロナの感染拡大で11府県に緊急事態宣言が出されている最中だが、だからこそ、今後の社会の在り方を考えたい。
 総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によると、コロナ禍の中で東京都は昨年5月、転入者より転出者が上回り、転居による人口増減がマイナスになった。これは、東日本大震災があった2011年7月以来のことだ。その後6月はプラスだったものの、再び7月から毎月2~4千人のマイナスが続き、現時点で発表されているデータで最新の11月は、4032人の転出超過だ。

 

  リモートワーク移住も

 一方、北海道への流入が目立つが、それ以外に、これまで人口流出が続いていた地方の小さな県も、数カ月の平均で転入者が上回っている。
 こうした現象が、コロナ感染不安による東京脱出という一時的現象で終わるのか、地方が再生し持続可能な新しい社会=「新・地方の時代」につながるのか、私たちの未来を大きく左右する。
 コロナ禍の中でリモートワークが急速に広がった。もちろん対面での会話は不可欠だが、普段は会社ではなく自宅で仕事をするというスタイルは広い範囲で成り立ちそうだ。
 そうすると、東京一極集中の密を避け地方へ移住し、「リモートワークしながら自然豊かな環境の中で子育てする」という生活スタイルを志向する人は増える。

 

  地域を外へ開く

 そのとき自治体は、移住者を抱え込もうとするのではなく、「地域を開く」必要がある。
 ある県の「ふるさと定住財団」へ、ある事業団体が地域まちづくり事業の補助金を申請した。その時、申請者が財団から求められたのは、その事業のネット広報を専門業者に委託する場合、契約相手は県内事業者とするように、ということだった。
 地方にいても全国の、あるいは世界の事業者と繋がることができてこそ、移住・定住が進む。県などの支援を得て地方に来ると、狭い範囲の事業者としか付き合えなくなるのでは「定住促進」どころか定住にマイナスだろう。地方の民間事業が全国や世界とつながるのを、むしろ応援して欲しい。
 また、リモートワークでは夫婦が一緒に自宅にいる時間が大幅に増える。その時、子育てや家事の分担に互いの納得がないと、その不平等が今までより直接見えてしまう。
 単に住む場所が変わるだけではなく、子育てや家事を家族みんなで担っていく新しい文化が育つことを期待したい。

 

  住民―自治体関係の複線化

 新型コロナに関係なく、すでに今日、仕事の関係で複数の自治体に居住場所を持つ人、ふるさとに愛着を持ちながら離れた都市で暮らす人、親の介護で2つの自治体を行き来する人など、住民と自治体とのかかわりは多様になっている。一つの自治体に住民登録し、一つの自治体に税金を払い、一つの自治体から行政サービスを受けるという単線型の関係は、こうした社会変化に対応できない。多様な人たちと自治体が複線型で柔軟な関係を作る仕組みが求められる。

 

  関係人口と「ふるさと住民票」

 首長有志と民間政策シンクタンク構想日本などが呼びかけた「ふるさと住民票」は2016年に鳥取県日野町でスタートし、現在は徳島県佐那河内村、香川県三木町、福島県飯舘村など10自治体(2020年5月現在)で取り組まれている。さらに数自治体が導入予定だ。
 法律に基づく住民登録をしている人以外で、様々な理由からその自治体と積極的に関わりたい人たち(関係人口)に、法律上の住民票とは別の「ふるさと住民票」を発行し、まちづくりへの参加の機会や必要なサービスを提供する制度だ。
 制度の詳細は自治体によって異なるが、その自治体の住民と同じ料金で公共施設を利用できたり、お祭りや行事の案内をもらったり、パブリックコメントへ参加できたり、といったことが可能になる。
 わが自治体には、自分のふるさとだという気持ちで知恵や力を貸してくれる関係住民がこんなにいる、という競争は、限られた住民票人口の奪い合いと違って、自治体を互いに高めることができる。

 

  地方の魅力を創る

 ところで、移住者は地方の魅力を求めて来たのに、肝心な地方は「活性化」の名のもと少しでも東京に近づくことばかり考えていたら、移住者はがっかりし、やがていなくなるだろう。
 筆者は昨年11月、まちづくりの調査で北海道ニセコ町を訪れたが、外国人も含めた移住者や移転企業がまちの活力になっていた。
 全国140以上の店舗を持つ「世界のお茶専門店 ルピシア」も、本社所在地を東京・代官山からニセコ町に移した。災害や感染症拡大リスクを避けるとともに、ニセコ町に本社を置くことで企業のイメージアップを狙っている。
 ただしニセコ町は、賑やかになるために何でも受け入れているわけではない。「『環境創造都市ニセコ』に合うものは受け入れ、合わないものは遠慮願う。それを判断するのは住民」と自信をもって話す町職員が印象的だった。

 

  「経済成長=国民の幸せ」とは違う豊かさ

 残念ながら地方創生の中で、「どんな計画を作れば国からOKが出るか」「どんな事業をやれば国が交付金をくれるか」と、住民ではなく国ばかりを見る自治体が増えた。
 あらためて強調しておきたいのは、地方自治は住民一人一人から出発するということだ。「私はこうしたい」「こんな暮らしがいい」「こう生きていきたい」、そんな一人一人の思いから出発する。思いはみんな違うから、みんなで話し合い、合意を作り、その合意で社会を築く。これが地方自治である。
 徹底して市民から出発すれば「経済成長=国民の幸せ」の公式とは違う豊かさが見えてくる。ここに「新・地方の時代」を拓く鍵があるのではないだろうか。

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