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コロナバブル崩壊に備える税制論議を

上智大学文学部新聞学科教授  小此木 潔

 東京証券取引所の日経平均が3万円を超えたと聞いて、バブルの時代を思い出した。だが、新型コロナ感染症パンデミックによる経済危機が続く今は、株高など別世界の出来事としか思えない人も少なくない。
 それもそのはず。コロナ不況こそが株高をもたらす構造要因になっているのである。不況を乗り切るための世界規模での金融財政政策により、ジャブジャブのマネーが市場になだれ込み、株価を押し上げている。東証の3万円超えは、日本銀行や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による巨額の資金投入だけでなく、ニューヨーク証金融市場の活況に象徴される世界的な「不況下のカネ余り」に引きずられている面が強い。

  バブルは早晩はじける

 この構図は、やがて崩れる運命にある。コロナのワクチンが普及して経済が回復すれば、やがては過熱を抑えるために金融引き締めが始まって株価が下落する展開になるのは避けがたい。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は当面、金融引き締めはやらないという姿勢だが、それも時間がたつにつれて変わるに違いない。
 株や土地などの資産価格が実体経済からかけ離れた状況にあるとき、それをバブルと呼ぶ。現状はまぎれもなくバブルであり、いつかははじける。バブル崩壊といえば、日本の場合、その結末は1990年代以降の長期デフレであった。その過程で金融機関の不良債権処理や不況対策のために公的資金がつぎ込まれ、政策のツケは財政赤字となって跳ね返り、のちの消費税引き上げへとつながっていった。
 このままいけば、今回も似たような展開になるのではないかと心配だ。コロナ不況対策で空前の財政出動が行われ、その後に来るバブル崩壊でさらに財政と金融は傷んでゆく危険性がある。その帳尻合わせに消費増税を、という主張が経済界や財務官僚、保守政党から出てくるだろう。だがそれでは消費がまた落ち込み、消費税の逆進性で格差がさらに拡大してしまう。日本経済の成長が損なわれるだけでなく、再び長期デフレの引き金を引くことにすらなりかねない。

  金融取引税の導入を

 こうした展開に陥るのを防ぐ手立てを、いまのうちから議論すべきではないだろうか。それには、「増税するなら消費税に頼るしかない」、といったたぐいの固定観念から政治もメディアも抜け出し、ポストコロナの税制を大胆に議論することが必要だろう。
 たとえば、新たな税源として検討されるべきは、炭素税や金融取引税、デジタル課税の導入、税の累進化や資産課税の強化といったことではないだろうか。
 炭素税については、ノーベル賞経済学者のジョセフ・スティグリッツ教授(米コロンビア大)が日本の税制改革の課題として数年前の来日時に指摘したことがある。また、世界的ベストセラーになった『21世紀の資本』の著者、フランスのトマ・ピケティ教授(パリ経済大)は累進税率や資産課税の強化を説いている。デジタル課税はグーグルやアマゾンなどGAFAと呼ばれるグローバル企業などへの課税である。
 筆者はそれぞれに賛成であるが、とくにバブル崩壊とのからみで重視したいのは金融取引に広く薄く課税する金融取引税の導入である。短期的な為替取引や株式・債権の売買に限らず、金融派生商品(デリバティブ)や仮想通貨の取引など、投機的な要素が強い金融取引に広く薄く課税することによって、年間数兆円の税収を期待できるのではないか。それを社会保障や財政再建に用いたり、バブル崩壊後の財政出動の財源に充てたりすることを検討すべきだと思う。

  欧米に検討の動き

 金融取引税の発想は、米国の経済学者故ジェームズ・トービンが為替取引について広く薄い課税を提案した「トービン税」に由来するとされるが、近年は欧州で導入の検討が進んでいる。EU(欧州連合)が昨年夏に開いた首脳会議では、再利用できないプラスチックへの新税を導入することに加え、今後は国境炭素税やデジタル税を検討することで合意した。金融取引税の創設も視野に入れているという。
 米国では、副大統領に就任したカマラ・ハリス氏がこれまでに社会保障の財源として株やデリバティブなどの取引に課税する金融取引税の導入を支持していた経緯がある。こうした状況もにらんで、日本も議論を本格化すべきだと思う。それにはジャーナリズムの果たすべき役割も大きい。

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