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コロナと五輪と経済と

上智大学文学部新聞学科教授  小此木 潔

 新型コロナ感染症の第4波を抑え込むため、政府は4月25日から東京など4都府県に3度目の緊急事態宣言を出したが、期間は5月11日までの17日間という短さだ。こんな「短期決戦」方針では見通しが甘すぎると思わざるを得ない。こうなったのは、東京五輪や経済にも気を配りながらコロナ対策を進めているせいだろう。コロナ、五輪、経済という3つの変数を抱える連立方程式の解を求めるような難しさを抱える中で菅政権が出した答えだが、これが正解であるとは到底思えない。

  宣言延長は不可避

 4月23日の菅義偉首相の記者会見では、宣言の解除のめどを聞かれた首相が、「状況を総合的に考えた上で判断する」と言葉を濁し、五輪については「安全安⼼の⼤会にすることができるように対策をしっかり講じてまいりたい」と述べた。会見に同席した政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は「変異株の感染力とか重症化の影響に加えて、リバウンドへの可能性ということを十分考慮した上で解除することが必要」と、早くも延長の可能性を示唆した。
 尾身会長は会見に先立つ国会答弁では「3週間は必要」だと述べていた。それなのに短い期間を設定した謎を解くカギは、やはり五輪と経済だろう。たとえば国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長の来日が予定される5月17日までに解除したいという思惑が働いた可能性がある。小池都知事の腹案が3週間だったといわれているが、それもバッハ来日に配慮した印象だ。経済活動への悪影響を最小限にとどめたいという政権の考えも背景にはあるに違いない。
 しかし、尾身氏も懸念する変異株の感染力の強さに加え、ワクチン接種が予定より遅れていることを考えれば、こんな短期間の飲食店の休業などで感染が下火になるとは考えられない。実際は宣言期間の延長が避けられないほど危機的な状況なのだ。

  経済回復遅らせる甘い対策

 国際通貨基金(IMF)が4月初めに発表した世界経済見通しでは、世界全体の今年の成長率予想が前年比6.0%増であるのに、日本は3.3%増にとどまり、中国や米国、欧州よりも低い伸びとなるという予測が示された。これは、日本でコロナ禍からの回復が遅れていることを示している。しかも、今年の1〜3月期の日本の成長率は新型コロナ感染症第3波と2度目の緊急事態宣言のせいで前期比マイナスになる見込み。IMFの年間見通しも日本は下方修正されるだろう。現在の第4波によって、日本経済の低迷ぶりはさらに際立つことになる。これはやはり、不十分なコロナ対策のせいで感染の拡大を繰り返し許していることに原因があると言わざるを得ない。これまでのような場当たり的な対策でなく、しっかりと感染を抑えるための十分な期間設定と、休業者への財政措置の強化が必要だ。
 日本社会がこうした難局に直面していることを重視し、それ乗り越える方策を3度目の宣言の前から提案している専門家がいる。連立方程式の変数から、東京五輪を外してはどうか、というのである。

  西浦教授が五輪再延期を提案

 『週刊文春』4月22日号に「五輪は一年延期を 西浦教授怒りの直言」という見出しで、京都大学の西浦博教授のインタビュー記事が掲載された。西浦教授は北大教授だった昨年、「人と人の接触を8割減らせば感染を抑止できる」と提唱して初の緊急事態宣言(昨年4月7日~5月25日)を主導した人だ。その後も数理モデルを使って感染状況のシミュレーションを行い、最悪の事態を回避するための方策を提案している。
 週刊文春の記事では「ワクチン接種完了は来年」「国民がワクチンでプロテクトされた状態で(五輪を)行うのと、大きなリスクを負いながら行うのと、どちらがいいか」と問題を投げかけ、「オープンに議論すべきです」と訴えた。
 従来株が変異株に置き換えられ、東京も5月半ばに変異株の割合が感染者の8割を超えると予測し、「今が、新型コロナウイルスが日本に上陸してから最大の危機にある」と、五輪延期も選択肢として議論するよう求めたのだった。
 この記事が文春オンラインで流れた4月14日、西浦教授は自らのツイートで「大それたことを言って申し訳ありません。お詫び申し上げます」「皆さんに広く議論していただきたいという思いから述べさせていただきました」と補足説明したが、これは反発や圧力も含めて多くの反響が寄せられたことが一因だろう。
自民党の二階幹事長もその翌日、TBSのCS番組録画で五輪について「無理ならスパっとやめなきゃ」と述べ、政権をあわてさせた。何がなんでも開催というわけではないと言っただけだと二階氏は釈明したが、国民の命の重さを考えれば五輪の開催にこだわるべきではないという当たり前のことを指摘したのなら、西浦教授の提言に通じるものがある。


西浦教授と釈明(4月14日のツイッターから)

  答えない菅首相の残念な姿

 菅首相会見で、中日新聞の記者は「各種世論調査では、今年の夏に予定どおりオリンピックを開催すべきだとの意見は少数で、多くの国民は、こんな状況で五輪ができるはずがないと今、思っています。(中略)国民の命を守ることよりも五輪が優先されていませんか」と質問。感染状況がどの時点で、どんな数値になれば五輪を開催し、どんな数値だったら開催しないという具体的な分かりやすい基準を国民に示すべきではないか、と迫った。
 これに対して首相は、「東京オリンピックの開催はIOCが権限を持っております」と逃げを打ち、「コロナの感染拡大を防止する、国民の命を守る、これは当然、私どもの役割であります。そこはしっかりやりながら、オリンピックも対応していきたい」と述べた。質問にまともに答えられない首相の姿は残念というしかない。
 さきの日米首脳会談終了後の記者会見で、菅首相はロイター通信記者の「公衆衛生の専門家は日本が五輪を開催する準備ができていないと指摘している中で、開催するのは無責任ではないか」という質問に何も答えなかった。
 こういう恥ずかしい事態を反省もしない首相では、西浦教授の提案に答えることもないだろうが、そんな首相と政権の姿勢を問いただし、議論を促す役割をジャーナリズムこそ担ってもらいたい。そうでなければ、強引な五輪開催で国民の命がよけいに失われたり、感染拡大で経済活動にもさらに大きなブレーキがかかったりしかねない。

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