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連載 あなたの地方自治
第三回 『自治をする覚悟』を持とう

中央学院大学教授  福嶋 浩彦

例えばだが、ある市が道路整備か学校改修か、どちらを優先させるか選択を迫られたとする。どうするか。

●自治体が自分で決める

 従来は、国が「国土建設が重要」と言って道路の補助金をいっぱい出すと、どの市町村も道路を優先した。逆に国が「教育が大切」と言って学校整備の補助金をたくさん出せば、どの市町村も学校改修を優先した。国から補助金をもらえる事業を選んだほうが得だと考えてしまうからだ。
 しかし本来、A市は学校の老朽化がひどい、B市は道路が緊急課題というように、自治体によって優先しなければならないものは異なる。だから自治体は、国から独立し地域の状況に応じて決められるよう、権限と財源を持つ必要がある。

●核心は「住民自治」

 ただし、自治体が独自に判断するのはいいが、市長が学校改修をする建設業者、道路整備をする土木業者、どちらと親しいか、というようなことで決まったのでは困る。それなら国が全国の平均的必要性で決めてくれたほうが、まだましだろう。
 そうならないよう住民の意思で自治体を動かすため、住民は首長と議会を選挙で選ぶ。首長と議会は住民参加を進め、住民とよく議論して決めねばならない。重要な政策は住民投票で決めることもある。これが住民自治であり、地方自治の核心だ。

●国に決めてもらった方が楽?

 私は消費者庁長官の時、全国の自治体の消費者行政担当者の会議で、「この補助金は消費者行政へ使うもの、こちらは学校改修へ使うものといった具合に、国が使い方をしばる補助金ではなく、自治体が自由に使える財源として一括して渡す必要がある。政府全体に働きかけたい」と話した。すると驚いたことに、自治体側から「それは困る」という反応が返ってきた。「消費者行政に使えと国が指示して欲しい」「そうしないとわが市では消費者行政に予算がつかなくなる」と言うのだ。
 しかし、消費者の立場から悪質商法や不良商品などによる被害を無くしていく消費者行政は、まだ新しい分野で、福祉、教育、土木といった既存分野に比べ、そもそも国の補助金は少ない。だから、何に使うか全て自治体の自由になれば、本当は他の予算を消費者行政へ回すチャンスのはずだ。
 ただし担当者は、従来のように自分の自治体の財政部局へ「国の指示だから」「補助金があって有利だから」と国をバックに説明して予算を確保できなくなる。「消費者相談はわがまちの消費者にとって必要だから」と「わがまち」の住民をバックにして財政部局を説得しなければならない。これから逃げるのは「自治」から逃げることだ。
 首長や議会も、「このお金は、国の決まりでこれにしか使えない」と説明するほうが楽かもしれない。使途が自由な財源を自分の判断で何に使うか決めたら、なぜその選択をしたのか住民に説明する責任が生じる。地方自治とは「自分で責任を取る」ということなのである。

●新型コロナから自治体が見える

 新型コロナウイルスの感染防止で、安倍首相は全国の学校に3月2日からの一斉休校を要請した。ただし休校決定は、首相ではなく学校設置者、つまり市立の小中学校では市長の権限だ(学校保健安全法20条)。
 文部科学省調査では、休校を見送る公立小中高校が全国で439校あった。他にも3月2日からでなく、両親が働く子ども達を含めて子どもの居場所の対応をしっかり行ってから休校した自治体もある。春休みまで授業を続けた学校が多かった島根県内は、現在(3月28日時点)も感染者ゼロが続いている。
 一方で、首相要請に忠実に従う以外の選択肢が頭になかった自治体も多い。

●国の下請けではない自治体を

 こうした動きを見ていると、住民の利益を自分の頭で考え行動する自治体なのか、国から言われると思考停止して無条件に従う自治体なのかが分かる。
 「私はこうしたい」「こんな暮らしがいい」、そんな住民一人一人の想いから出発する自治体。それに対して国民全体を統計やデータで分析して政策を決める国。この2つが緊張感を持って向き合い、相互作用で社会を作っていくことが大切だ。
 自治体が国の下請けをやっていては、この関係は作れない。いま地方自治が問われている。

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