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コロナ禍のテレビ

テレビ屋 関口 宏

 5月25日、東京でも新型コロナウィルスの緊急事態宣言が解除になりました。どこかホッとしながらも、まだ手放しでは喜べない複雑な思いの中に多くの方がいらっしゃるものと思われます。我がテレビ業界も同様です。直ちに元の状態に戻れるとは思えません。万が一のことがあれば、番組だけでなく局全体の責任が問われかねません。まだしばらくは、緊急事態のままで対応せざるを得ないものと思われます。そこで今月は、今の私の仕事状況をご報告しようと思います。

 BS-TBSの『もう一度近現代史』(土曜日・昼・12時)は収録・完全停止状態。このコロナ禍が始まる前に、丁度、明治45年の放送を終えることができましたので、今はテーマを絞り込んだ再編集もので凌いでいます。でもそろそろそれも限界。大正、昭和へと駒を進めなければならないのですがどうしたものか。ネットを使った収録ができないかスタッフが試行錯誤していて、まだ結論が出ていません。

 『サンデーモーニング』は金曜・土曜の打ち合わせはネット会議。その模様は4月号でご報告した通り、隔靴掻痒の感の中でどうにか繋いで、日曜日の生放送に備えています。そして日曜日は朝6時に局に入りますが、入り口で体温検査を受け、熱があれば一歩も局の中には入れず仕事はできません。お陰様で今のところ何事もなく助かっていますが今後の保証は何もありません。そしてだだっ広い会議室で手を消毒。ワンチーム4、5人のスタッフとスカスカに感じられるほどの距離を取りながらの最終打ち合わせ。時には大声を出さないと通じないこともあって疲れます。こうしたチームがテーマごとに5、6チーム編成されていて、それが入れ替わり立ち替わり打ち合わせをして本番に備えます。



 打ち合わせ後は少数のスタッフとエレベータに乗り、長い廊下を伝ってスタジオ脇の控え室に移動しますが、そこでちょっとスタジオを覗き、中川さんという女性が活けてくれたスタジオ花を確認。ここで少しホッとして、花に合いそうな衣装を決めます。そして7時30分に手を消毒してスタジオ入り。スカイプというツールを使って外部から参加されるコメンテーターとご挨拶。しかし場を共にする共有感が希薄なものですから、どうしても通り一遍な会話になってしまいがちですが、軽く流れを全員で確認。やがて女性キャスターもスタジオ入りして本番が始まりますが、スタジオ出演者同士も十分距離を取らなければならないので和気藹々という雰囲気にはなりません。



 生本番は嫌でも10時には終わります。そしてその場で何の愛想もなく直ちに解散。コロナ以前は本番後別室で、出演者、スタッフと今風に言えばお茶をしながらしばらく歓談したのですが、今はそれも厳禁。虚しく手を消毒して帰路につくのです。

 「あぁ つまんない!」と言いたくもなる味気ない作業の繰り返し。仕事はみんなが一堂に会してワイワイ言いながら作り上げるものと思ってきた我々から、コロナは仕事の面白さも奪ってしまったのです。

 我々だけでなく、ほとんどのテレビマンがコロナ制約下での番組作りに四苦八苦していることでしょう。「三密を避ける」。コロナ対策としてのそれは分かりますが、我々の仕事は、密集・密閉・密接を避けていては成り立たない部分が多い職場でもあるのです。そして担当者は、満足のゆく出来にはならないまま、番組を出さざるを得なくなっているのが現状だと思われます。

 最近、コロナによってあらゆるものが変わってしまうのではないかというポストコロナの話があちこちから聞こえてくるようになりました。経済、外交、医療、教育・・・・・文明の一大転機になるかもしれないと言われ始めました。

 そして我がテレビ業界も例外ではないような気がしています。首都圏のキー局と地方局の在り方、コロナ後のスポンサーの動向、ネットとの関係等々、元の状態には戻れない何らかの現象が起こるかもしれません。そしてこのコロナの時期に、不完全な番組を出し続けざるを得ないことの悪影響が心配されます。

 「テレビ、つまんないね」と言われかねないことを危惧するのです。

      テレビ屋  関口 宏

(尚、このコラムは5月下旬に書いたものですから、お読みいただく時点で、状況に変化があるかもしれません。)

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