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2020年9月号

「安倍レガシー」は膨大な借金

塾長 君和田 正夫

 長かった安倍政権が終わりを迎えました。滞空時間は最長の7年8カ月。辞任表明した8月28日の記者会見は巧妙な答えに終始しました。彼が目指した「レガシー」(後世に残る遺産)は「歴史が判断する」のだそうです。「我、弁明せず」という格好いい答えなのですが、同時に、記者団に向かって、そして国民に向かってお前さん方が今、判断することではないんだよ、と念を押しているのです。「国民が判断する」という答弁にしても、選挙の強さを誇っているように聞こえます。俺がやった選挙は6連勝だ、次も勝つ、それが国民の判断だ、ということでしょう。しかし後世が判断した時には手遅れだった、ということがよくあります。歴史や選挙が判断する前に、レガシー評価をしてみようではありませんか。
 最大の遺産は最長の在職期間と膨大な財政赤字だけ、と私には思えます。ところが記者会見で公文書の扱いについて質問が出ました。「歴史が判断すると言っても、肝心の公文書がなければ判断のしようがない」。全くその通りです。森友問題、桜を見る会問題などを思い返すと、公文書の扱いが杜撰だったのか、隠蔽だったのかわかりませんが、安倍内閣の際立った特色だったことが分かります。これもレガシーの是非ものとして加えましょう。

  アベノミクスを支えた国債

 安倍政権と言えば、久しぶりに憲法改正を正面に掲げて登場しました。彼は戦後誰もなしえなかった憲法改正に手を付け、最大の「レガシー」にしたかった。母方の祖父、故岸信介首相(1896年~1987年)が夢見た「占領軍による押しつけ憲法」を改正し、自立した日本を自分の手で成し遂げよう、という意気込みでした。それが成らず、記者会見でも残念そうでした。首相は北朝鮮の拉致問題、ロシアとの平和条約も残された課題として挙げましたが、次世代が取り組むべきテーマとして残したとすれば、これも「レガシー」なのかもしれません。
 アベノミクスをレガシーとして評価する見方もあります。株価は明らかに上昇しました。2008年のリーマンショック時は7162円にまで下落しましたが、2012年、民主党政権から安倍政権に変わって間もなく2万円台を回復しました。失業率も改善し、経済環境は好転しました。
 しかし景気対策はお金がかかるものです。景気回復と引き換えに財政赤字が膨らみました。現在、日本の赤字国債残高はざっと1000兆円ほどです。国民一人当たりに換算すると850万円前後でしょうか。
 アベノミクスは「3本の矢」がうたい文句でした。そのうちの「大胆な金融政策」と「機動的な財政政策」を車の両輪のようにフル稼働させて景気の浮揚を図りました。そのために国債を大量に発行し、それを日銀が引き受ける仕組みが出来上がったのです。

  「平成時代」を断罪した財政審議会

 2018年11月20日に平成最後の予算編成を審議した「財政制度等審議会」(会長・榊原定征東レ相談役)は「歴史の判断」を待つことなく実に明快に「平成時代」を断罪しました。審議会は毎年、予算の在り方などについて意見を具申する、財務大臣の諮問機関です。
 「平成31年度予算の編成等に関する建議」は、特例公債の発行額が30年度当初予算で27.6兆円に及ぶと批判したうえで次のように述べています。「特例公債」とは赤字国債のことです。
 「平成という時代はこうした厳しい財政状況を後世に押し付けてしまう格好となっている」
 「税財政運営は常に受益の拡大と負担の軽減・先送りを求めるフリーライダー(コストを負担せず利益だけを受けようとする人=筆者注)からの圧力に晒される。平成という時代は(略)受益と負担の乖離が拡大し、財政運営がこうした歪んだ圧力に抗いきれなかった時代と評価せざるを得ない」
 榊原会長は記者会見で「平成の30年間の税財政運営を振り返ると、将来世代の子や孫たちに申し開きが立たないと言わざるを得ない」とまで言い切ったのです。発言の鋭さや激しさに驚かされますが、このような建議をする審議会がまだ健在だった、ということに、もっと驚かされました。首相はこの建議をお読みになったのでしょうか。

  平時こそ非常時に備えよう

 安倍政権は「新・3本の矢」も用意しました。そのうちの一つ「出生率1.8%」を見ても国家の骨格になる大事業です。膨大な予算と長い年月と、そして何よりも「歪んだ圧力」に屈しない政治家の覚悟と見識が求められます。安倍政権からは長期の政策展望を感じることができませんでした。
 そこへコロナ危機です。2020年度予算は二度にわたり補正予算を組みました。第二次補正分はすべて国債で賄うので、新規国債発行額は90兆2,000億円にも膨れました。非常時の国債発行はやむを得ないと多くの人が受け止めたでしょう。私もそう思います。しかしそのような事態を想定するのが国家です。なぜ平時に財政の健全化の道筋を付けておかなかったのか、と憤りさえ覚えます。若い世代は安倍政権への支持率が高い傾向にあります。就職率などがよかったからでしょうが、よく考えてください。膨れ上がった借金のツケは、いずれ、あなた方に回っていく、ということを。

 安倍首相、あなたは大叔父の故佐藤栄作氏(1901年~1975年)の在職期間を抜いて最長記録を達成することができました。しかし真似できないレガシーを大叔父は持っていらっしゃる。佐藤氏が1974年に受賞したノーベル平和賞です。国会で非核三原則(核兵器をもたず、つくらず、もちこませず)を表明したことが評価されました。日本人でノーベル平和賞の受賞者はただ一人です。残念ながら9条改正を目指し、集団的自衛権の限定行使を認め、特定秘密保護法を作ったあなたに平和賞は縁遠い存在と言うしかありません。あなたのレガシーは借金と在職期間と公文書ということにならざるを得ないのです。

(2020.08.29)

君和田 正夫

塾長

1941年(昭和16年)生まれ。早稲田大学卒。
1964年、朝日新聞社入社、経済部記者などを経て2005年(平成17年)テレビ朝日に。
退任後「独立メディア塾」の共同代表。

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