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たかが10億円

塾長  君和田 正夫

<本記事の写真について>
日本学術会議の新会員に6人が任命されなかった。その一人、加藤陽子氏は多くの著作がありファンが多い。ここに挙げた著作の内容は確かに政権には面白くない。それで任命されないとすると、日本はすでに“暗黒時代”に入っている。


 「たかが10億円で、ずいぶん偉そうですね」と言いたくなるのが日本学術会議を批判する国会の先生方です。あなた方の金銭感覚は税金を自分のものと思っているのですね。あなた方の国家観は自分を守ることが優先され、国民は視野の外ということですね。
 学術会議に支出される年間10億円余の予算。大したことはない、と言ったら叱られることは覚悟していますが、いかに安いか、次を見てください。私たちは10億円で大事なものを失おうとしているのです。

  マスク260円、政党助成金250円

 悪評だったアベノマスク。製作費は一枚260円で配達費などを含めて総額466億円と見積もられていましたが、実際は500億円を超えたという推計があります。仮に500億円として国民一人につき約400円。学術会議の方は、というと一人10円未満。マスクの馬鹿々々しさと学者先生を比べるのは失礼ですが、学術会議より先に、マスクの経緯を追及すべきでしょう。電通などへの委託事業はさらに闇の中です。こちらに切り込もうという政治家はいないのでしょうか。
 そうした自分本位の国会議員に、私たち国民は年間いくら払っていると思いますか。一人250円です。マスクとほぼ同じ額ですが、政党助成金に使われていて、年間320億円にもなります。
 政党助成金には悪しきいきさつがあります。1994年の導入当時は企業や団体などとの癒着を防ぐため企業・団体からの献金をやめさせる狙いでした。ところが政治家個人への献金は禁止されたものの、党の本部、支部、後援会などへの献金は残ったのです。それなら助成金をやめるべきでしょう。共産党は廃止を求めて受け取っていません。立派なものではありませんか。

  「答弁を控える」という答弁、たかが80回

 問題の所在を正視しない政権。それを具体的に示したのが、政府の答弁です。10月28日から始まった臨時国会で菅首相や閣僚が「答弁を控える」と答弁したことが80回近くになった、という記事(11月10日、朝日新聞朝刊)が出ていました。11月6日までのわずか10日間の代表質問と衆院予算委員会でのことです。半分以上の48回が学術会議に関する答弁で、しかもそのうち42回が首相の答弁でした。
現在も「桜を見る会」問題で「控える」を連発しているようです。

  事実と違う答弁、森友で139回、桜で33回

 しかし私たちはこの程度で驚いてはいけません。政権の国民無視が相次いで公にされてきました。
 まず例の森友問題です。17年2月15日から18年7月22日の約1年半の間に、衆参の国会質疑で事実と違う答弁が139回も繰り返されたというのです(11月25日、26日の各紙報道)。衆院調査室が野党の質問に答えた公式の調査です。当時の佐川宜寿理財局長(財務省)の「記録が残っていない」「交渉記録はない」といった答弁の誤りが今になって認められたのです。「あった」記録は国会で再び審議することになるのでしょうか。
 もう一つは、やはり「桜を見る会」の夕食会事件です。会の前日に主催した夕食会に安倍氏側が費用の不足分を補填したかどうか。東京地検の事情聴取を受け、安倍氏側は負担したことをやっと認めましたが、衆院調査室によると、ホテルとの契約、明細書の有無などで安倍前首相が2019年から20年の国会などの場で少なくとも33回、事実と異なる説明をしてきました(11月26日毎日新聞)。
 安倍、菅両政権の特徴は「答弁を控える」「記録がない」と答え、「ウソ」がまかり通っていることです。言葉の重みは国民への説明の重みです。その常識中の常識がなぜ守られないのでしょう。内閣を形作る人材の幅の狭さに一因があるとしか思えません。

  首相の面会、1,2位は公安のプロ

 菅首相が間もなく就任2カ月を迎えようとしているときに、就任後1か月の間に誰と何回面会したかを分析した記事(朝日新聞=11月16日)が出ました。
 面会数が最も多かったのは北村滋国家安全保障局長で29回。日本のCIAと言われるポストです。次いで滝沢裕昭内閣情報官の26回。滝沢氏は「内閣官房国際テロ情報収集ユニット国際テロ情報集約次長兼外務省大臣官房審議官」という長い名前の役職に就き、2019年から現職です。首相の面会相手の1位、2位がともに警察庁出身で、警備・公安のプロです。学術会議問題で6人を外したキーマン、杉田和博氏も警備・公安畑のベテランです。

  法律、組織をいじらずに介入

 現在の政権の怖さは内閣官房が大きな力を持っていることです。
 戦前の怖さは新聞紙条例制定(1875年)、治安維持法公布(192年)、思想検事設置(1928年)、文部省に思想局(1934年)…といった具合に法律・組織の面で次々に締め付け体制を整えたことです。その結果、数々の弾圧事件を生みました。しかし現在はあからさまに組織や法律をいじることなく、内閣官房の一存でモノが動くようにしています。戦前の思想統制よりもっと巧妙で汚い手法を連想させるのです。
 就任間もない首相として、こうした疑念、連想を断ち切る最初の仕事は、なぜ学術会議の6人を排除したのか、明らかにすることでしょう。

  お金に苦しむ大学運営

 先日、日本経済新聞に「東大、切望した自主財源 初の大学債、公的資金から自立」という記事が出ていました(20・11・13)。
 記事によると、東大は今後10年で1000億円以上の大学債を発行し、設備投資に充てる予定です。国立大学は2004年に法人化されて以降、国からの運営費交付金は減少傾向にあり、東大も15年前より100億円も減ったそうです。
 苦しむ大学、学術軽視と言われたくない政府。そこで官と学で10兆円規模の基金を創設することを検討するそうです。(日経新聞20・11・14)
 10億円で任命責任などを言い募るのですから、10兆円になると、政府、国会議員は何を求めるようになるのでしょう。

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