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米中激突 どうする安倍外交(下)

塾長  君和田 正夫

 軍事、経済に限らず、環境や人権、健康の分野でも米国は明らかに世界から手を引いています。その代表例はパリ協定です。
 気候変動への国際的な取り組みを決めたパリ協定に対して、米国は2019年11月4日、国連に離脱を通告しました。中国、ロシアが地球温暖化防止に何もしていないのに、米国が最大の基金拠出国になっているのはおかしい、という主張です。米国の離脱は大統領選の翌日、2020年11月4日に決まります。トランプ大統領が敗れると、次の大統領が離脱の是非を決めることになります。
 コロナ騒ぎでも米国は世界保健機構(WHO)が中国寄りだと批判し、2021年7月6日に脱退することを通告しました。

  顰蹙を恐れない中国の“超自信”

 イスラエルがらみの離脱も目を引きます。2018年6月に国連の人権理事会を離脱しました。以前から人権理事会には「慢性的な反イスラエル的な偏見」があると非難していました。日本人にはなじみやすい国連教育科学文化機関(ユネスコ)からも同じような理由で脱退しています(2018年12月31日)。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金も2019年から停止しました。
 こうして米国が次々と舞台から退くと、待ってましたとばかりに中国が登場してくるのです。最近の中国の立ち振る舞いは、国際社会で顰蹙(ひんしゅく)を買っていますが、顰蹙を買うことなど恐れなくてもいい、という超自信を感じてなりません。

  放置すれば自由主義、民主主義が敗れる

 香港の国家安全法に代表される言論・人権問題は国際世論の反発を買いました。南シナ海では海洋権益を主張した行動が日本をはじめ多くのアジア諸国から反発を買っています。
 通信機器による情報の窃取・漏洩問題は今後も尾を引き続ける大問題です。次世代通信規格「5G」は一国の安全保障に深くかかわる問題に発展しました。米国とそりが合わなかった西側諸国もここは米国と共闘しようという気運が高まり、英国やオーストラリアが強い姿勢で中国に対峙しています。“戦線”は国境を越えて軍事、政治、経済から宇宙にまで広がってきました。
 さあ、日本はどうする?。トランプ大統領が大統領選で負けても米国の対中国路線は変わることはないでしょう。たとえパリ協定やTPPで方針転換があったとしても中国問題は双方にとって国の体制をかけた戦いになっているからです。西側諸国はトランプ大統領の傍若無人は不愉快だけれども、中国の傍若無人を放置したら、いずれ軍事、経済すべての面で民主主義国家、資本主義国家、自由主義経済が敗れるだろうと予感しているからです。

  国連機関のポスト増やす中国

 国連分担金は3年に一度決まります。2019~21年の通常予算で中国の分担率は日本を抜いて第2位になります。米国の国連離れ、日本の及び腰外交に対し、中国は国連での存在感を増し続けているのです。
 7月18日の朝日新聞朝刊の「多事奏論」という欄で吉岡桂子編集委員が「国際機関 中国が存在感」という、次のような記事を書いています。
 中国寄りだという批判があるWHOの事務局長選挙について、2006年の選挙ではコロナ対策で有名になった尾身茂氏が中国が推す香港出身の候補に敗れた。そのことを厚生労働省幹部は「最善の候補で敗れた。太平洋戦争のミッドウェー海戦で敗れた日本軍のような心境だ」という言葉を残した。

 これが中国が初めて獲得した国際機関のトップの座だったと吉岡記者は書いています。以後。中国は国連工業開発機関(UNIDO)、国際電気通信連合(ITU)、国際民間航空機関(ICAO)、食糧農業機関(FAO)の国連の4機関のトップを占めています。中国が国際的な規格・標準作りの主導権を握り始めていることに米国の不快感は頂点に達しています。

  アジア諸国と連携強化を

 「日米安保の現在地」の「日米歩むべき道は」と題する記事(7月26日、朝日新聞朝刊)で、ハーバード大学教授のジョセフ・ナイ氏は1990年代のクリントン政権で「日米安保の再定義」を主導した狙いについて「中国の台頭をどうするか、というものだった」と振り返っています。30年前から中国を意識していたのです。
 それなのに今になって怒り狂う米国、中国との経済関係の深まりの中で打つ手を失いつつある日本。それに対してじっくり、世界への登場を図ってきた中国。その中国と対等に競っていくために、私たちはアジアの各国、例えば東南アジア諸国連合(ASEAN)の10カ国と連携をさらに深めたり、「SEAN+3(日・中・韓)」の場を活用したりして深慮遠謀の、先を見た外交を展開しようではありませんか。その第一歩として、なすべきことは臨時国会を開くことです。コロナ、災害対策が待っています。そして国際社会での日本の在り様の議論を始めましょう。山ほど課題が待っています。

(2020・07・28)

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