ゲスト様

2020年8月号

米中激突 どうする安倍外交(上)

塾長 君和田 正夫

 「アメリカは国連を脱退するのではないか」―悪い夢にうなされそうです。米国と中国が力づくで対決し、震度5,6級の揺れが日本を襲っています。日本の針路は大揺れだというのに国会は閉会中、首相は沈黙の一手です。中国発のコロナ対策は自治体任せ。やらんでもいい「Go To」キャンペーンで感染拡大に血眼の族議員。米中激突で喜ぶ防衛族。日本の進路は我ら国民が考えるしかない段階に入りました。

  「新たな同盟」を呼びかける

 ポンペオ米国務長官は7月25日の講演で「共産主義の中国を変えなければ、彼らが私たちを変える」と激しく中国を批判しました。さらに「新たなグループを作る時かもしれない。新たな民主主義の同盟だ」と同盟国の結成まで呼びかけたのです。この講演は驚きでした。その直前に発表された中国総領事館(ヒューストン)の閉鎖措置を上回る衝撃でした。
 なぜ驚いたか。私のような歴史音痴がまず思い浮かべたのは、日本が1933年に国際連盟を脱退を決めたことでした。そのころと今が似ているように思えるのです。日本の脱退は国連が満州国を認めなかったことに対する抗議行動でしたが、これが第二次世界大戦につながっていきます。(この辺の事情について毎週土曜日正午からBSTBSの「関口宏のもう一度近現代史」で保阪正康氏が解説してくれていますのでご覧ください)
 その後、共産主義の拡大を防ぐためということを理由に1936年、ドイツと「日独防共協定」を結び、37年にはイタリアも加わって「日独伊防共協定」を結びました。両国とも日本に続いて国連を脱退しており、40年には「三国同盟」へと発展しました。もちろんこの時の「防共」は中国ではなく、ソ連共産党を仮想したものです。当時ヨーロッパではコミンテルン(国際的な共産主義組織)の活動が活発になっていた、という背景があります。
 今、米国が標的にする共産主義は中国に変わりました。米国の「反共産主義」「新たな同盟」の主張は当時の三国同盟の発想とダブって見えてきます。中国が影響力を増し続ける国連。米国が「サヨナラ」してもおかしくない、と思えてきたのです。

  「濡れ手で粟」の中国

 トランプ大統領は就任直後から、明らかに国際社会に背を向けました。その動きのキーワードは二つあります。一つはもちろん中国、もう一つはイスラエルです。中でも核をめぐる動きはあわただしいものでした。少し振り返ってみましょう。
 トランプ大統領は米・ロの間で結ばれていた中距離核戦力全廃条約 (INF)を2019年2月1日に一方的に破棄しました(8月2日に失効)。条約は1987年にレーガン米大統領とソビエト共産党のゴルバチョフ書記長という懐かしい名前の巨頭の間で調印されたものです。30年に及ぶ核抑止の歴史はそれなりに評価されてきました。さらにINFに続いて新戦略兵器削減条約削減条約(新START)も来年2月5日が期限切れになります。これも米国のオバマ前大統領とロシアのメドベージェフ前大統領が合意した米・ロ間の条約です。 米国がいら立つのもわからないわけではありません。米・ロ両国がINFや新STARTで縛られているうちに中国は中距離ミサイルでトップレベルの保有国になってしまったからです。そこで期限切れを迎える新STARTに中国を入れた「三国の条約」にしようというのが米国の主張ですが、中国は応じる気はなさそうです。そうなると世界の核開発競争が激化することは必至です。
 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は、毎年行っている核兵器などに関する調査の報告書を7月15日に発表しました。この報告書も中国の「濡れ手で粟」の現状を示しています。
 各国が保有している核弾頭の推計総数は、2020年1月の時点で1万3400個。去年の調査に比べて465個減りました。米国とロシアが削減したからです。ロシアは125発減らして6375発、米国は385発減の5800発です。これに対し、中国は30発増の320発になりました。

  軍事と経済は表裏一体

 トランプ大統領は18年5月にイランとの間の核合意からも離脱しています。この合意はイランと6カ国(米・英・仏・独・ロ・中)との間で2015年7月に結ばれました。トランプ大統領の就任前のことです。背景にはイランが中国依存度を高めていること、イランのミサイル開発がイスラエルへの脅威になることが指摘されています。
 軍事と表裏の関係にあるのが経済です。米国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱(2017年)しました。世界貿易機関(WTO)の政府調達協定(GPA)からの離脱も検討しているとの観測が流れています。
 ひょっとすると、安倍外交は米国に全幅の信頼を寄せていたのかもしれません。何しろ貿易の黒字削減に貢献するため、無駄なイージス・アショアを導入したり105機のステルス戦闘機F35を爆買いしたりして、たっぷりゴマすりしてきたのですから。ステルス戦闘機は2兆5000億円にものぼります。さかのぼれば2014年に集団的自衛権は行使できると憲法解釈の変更を閣議決定して米国を喜ばせたこともありました。軍事、経済両面で米国に協力してきたはずなのに、と安倍首相はおもっているかもしれません。
 こう書き終えた時、中国は四川省・成都の米国総領事館を接収しました。報復合戦は新たな冷戦がすでに始まっていることの証拠でしょうか。

(2020・07・28)



続きの記事

米中激突 どうする安倍外交(上)

「アメリカは国連を脱退するのではないか」―悪い夢にうなされそうです。米国と中国が力づくで対決し、震度5,6級の揺れが日本を…

米中激突 どうする安倍外交(下)

軍事、経済に限らず、環境や人権、健康の分野でも米国は明らかに世界から手を引いています。その代表例はパリ協定です。

君和田 正夫

塾長

1941年(昭和16年)生まれ。早稲田大学卒。
1964年、朝日新聞社入社、経済部記者などを経て2005年(平成17年)テレビ朝日に。
退任後「独立メディア塾」の共同代表。

お知らせ

新着記事

ページトップに戻る