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安倍首相が軽視する日本語と議論

塾長  君和田 正夫

 150日間の国会が終わりました。安倍首相としては最後の通常国会になるかもしれません。あなたが初めて総理大臣に就任された2006年(平成18年)の第159回国会を覚えておりますか。所信表明演説で「美しい国」を国家像として掲げ、内閣を「美しい国づくり内閣」と命名し、翌2007年を「美しい国づくり元年」と位置づける意気込みでした。それから14年。間に五代の内閣を挟みながら、第二次、三次、四次と登板回数を重ね、ついに降板の時が次第に近づいています。この際、「安倍言葉」を考えてみましょう。

  怪しげな日本語「美しい」

 平山郁夫氏を座長とした「美しい国企画会議」は第一次安倍内閣の崩壊とともに廃止され「ボンボンの道楽」と酷評されました。委員の一人が私に聞いてきたことがあります。「美しいって何を意味しているのか、見当がつかないんだよね」。そうでしょう。戦前回帰を想起させるような怪しげな、胡乱な悪臭がウィルスのように発散されました。
 「美しい国」とはどんな国でしょう。美しくない国とはどんな国でしょう。人それぞれが自己都合で解釈できる言葉を安倍さんは好むのです。だから議論がかみ合わない、その方が安倍さんにとって好都合だからです。
 国会でよく使われた言葉に「丁寧」があります。「丁寧」とはどのような意味で使っているか、これも考えてみましょう。

  「丁寧」は「丁寧でない」

 2020年1月6日 の年頭会見です。質問が出ました。桜を見る会に、反社と言われるジャパンライフの山口元会長を招待したのかどうか、もし招待者名簿が破棄されて、確認できないとするならば、聞き取り調査などで調べる考えはあるか。
 これに対して首相は「桜を見る会については、国民の皆様から様々な御批判があることは十分に承知をしている。世論調査の結果についても謙虚に受け止め、今後も丁寧に対応してまいりたいと思う」と答えました。
 「丁寧」の語源は、多くの辞書・辞典が中国発祥の金属製の打楽器と書いています。別名「鉦(しょう)」とも呼ばれ、戦いのときに注意・警戒を促す警報として使用された。そこから周囲や細かいところまで念入りに注意する、気を配るといった意味が生まれてきた、というわけです。
 そう、安倍さんの「丁寧」は相手に対してではなく、自らへの「警告」だったのです。言質を取られないように慎重に答えろよ、注意深く答えよう、と。議論がかみ合わないはずです。

  責任を認めることが「責任を取る」こと

 「責任」という言葉も同じです。彼は何度も「責任」を認めています。例えば6月18日の記者会見。河井克行前法務大臣夫妻の逮捕についての質問を受けて。
 「法務大臣に任命した者として、その責任を痛感している。(略)我々国会議員は、改めて自ら襟を正さなければならないと考えている」。
 責任の取り方は「襟を正す」こと。これで完結です。認めたくない責任を「認めること」自体が「責任を取る」ことのようです。もう一つ、安倍さんの責任に対する考えが大変よく出た答弁があります。20年3月16日の参院予算委員会です。検察の定年問題で珍答弁を繰り返す森まさこ法相の更迭を、首相が拒否した答弁です。
 「森氏は責任を痛感している。緊張感と責任感を持って職務を遂行してもらいたい」
 今後、しっかりやることで責任を取る。「襟を正す」と同じです。空手形路線です。
 評論家の中島岳志氏は「さまざまな政治家の文章をじっくり読むことによって、おなじみの政治家たちの理念や構想を把握していきたい」と述べて「自民党」という本を書きました。その中で、安倍言語について「その場ぎのごまかしや不誠実さが目立つと指摘されます。しかし安倍首相は動じていないでしょう。彼は祖父・岸信介の態度を継承しながら、心情倫理として問題があっても、結果責任をとることで免罪されると考えているのですから」と分析しています。彼はどのような結果を目指しているのでしょうか。
 2019年12月9日の会見では桜を見る会について開き直りをさらに上回る立派な見識を披露しました。
 「公費を使う以上、これまでの運用を大いに反省し、来年度の開催を中止するとともに、今後、私自身の責任において招待基準の明確化や、招待プロセスの透明化を検討するほか、予算や招待人数も含めて、全般的な見直しを、幅広く意見を聞きながら行っていく」。
 自分の不始末のを責任を「自身の責任において」改善していくという “やる気満々”の責任論にすり替わっています。国会の劣化、疲弊はリーダーの、こんな言葉遣いにうかがえるのです。


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(2020・06・27)

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