五輪は万国博覧会の「余興」
塾長  君和田 正夫
開催期間を見て驚かされます。第一回のアテネは4月6日から15日まで10日間です。ところが、第2回のパリ(1900年)は5月20日から10月28日までなんと5カ月間にわたって開催されています。開会式も閉会式もなし、とあります。パリ大会は五輪の提言者であるクーベルタン男爵が仏国人ということでアテネに次いでの開催になりました。
資金不足で万博とタイアップ
なぜこんなに長期間の五輪になったのでしょう。参加国はわずか14カ国、参加人員は427人でした。「オリンピックと日本スポーツ史」は次のように説明します。「クーベルタン男爵の故国のことでもあり、はじめ理想案を以て計画されたが、いざ、実施となると資金難のために当初の企てとは相違して、同じ年に開かれる万国博覧会とタイアップすることになった。ところが主客転倒して、競技は博覧会の余興のようなものになってしまった」
「第二回大会はオリンピック史でも内容外形ともに最も貧弱なものという定評であった」
ところが、それで終わりませんでした。第3回のセントルイス大会(1904年)も5月14日から11月末まで半年もかかった、と言われています(同書は日程を断定していません。)前回以上に博覧会に人気を奪われ「博覧会の付属物ように取り扱われてしまった」と嘆いています。開催地米国が欧州から遠いため、英・仏が参加せず、参加国は10カ国、参加人員は米国選手を除くと60人ほどという淋しさでした。
会期16日と正式決定
日程が“正常化”したのは第10回のロサンゼルス大会(1932年)からです。7月30日から8月14日まで行われ、この大会から会期を16日間と決めました。五輪が万博の「付属物」のように扱われたのは、歴史の違いが大きかったといえるでしょう。
国際博覧会(万博)は五輪より半世紀近く前に始まりました。最初の万博は1851年5月1日から11月11日までのロンドン大会です。毎年、英国で開催されていた工業製品と工芸品の博覧会を一挙に国際規模に拡大しました。参加国は34カ国(「博覧会の政治学 まなざしの近代」吉見俊哉著)。世界の技術力、開発力、資金力がぶつかり合い、国家の力を見せつけ合う大デモンストレーションだったのです。もともと五輪よりはるかに大規模な国際イベントでした。
「付属品」扱いだったパリ大会について、クーベルタン自身はさほど落胆しなかったそうです。「オリンピック大全」(武田薫著)によると、パリ万博は半年の会期に4700万人の客を集め、会期中はアールヌーボーの建築が町中を飾り、映画や自動車の話題であふれ、日本からも川上音二郎一座がやって来た。「生まれて間もないスポーツが花のパリで かすんでしまったことには、クーベルタンもあきらめがついただろう」というわけです。2000年以降、大規模万博は5年周期になりました。
来年、北京で冬季五輪が開かれます。24年の夏はパリ、28年がロサンゼルスです。その間の2025年に大阪万博が入ってきます。
昔のように開会式も閉会式もなくして、ということは米国テレビ会社の呪縛から逃れて、競技ごとにだらだら半年くらいかけてやる、という方法はどうでしょう。
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