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【新聞コラム特集】
毎日新聞・余禄(2021年11月12日)

 独立メディア塾 編集部

「瀬戸内晴美(せとうちはるみ)さん剃髪(ていはつ)?」。1973年11月14日の小紙社会面の見出しである。人気作家を岩手県平泉の中尊寺まで追いかけ、事件のように伝えている。この日51歳で天台宗の尼僧になった瀬戸内さんはやはり作家の今春聴(こんしゅんちょう・東光)貫主から「寂聴」(じゃくちょう)の法名を受けた▲「私が仏に近づいたのではなく、仏が私を引っぱりよせた」と振り返っている。「ある程度の虚名と経済的ゆとり」を手に入れたが「性懲りもない恋の果てに、人間の愛や情熱は必ず衰える時が来る」と思い知らされた▲晩年の笑顔やユーモアあふれる語り口からは想像しづらいが、煩悩に苦しむことも多かったらしい。不倫の末に娘を置いて家を飛び出す恋多き女性。本格デビュー直後の作品をポルノ小説と酷評され、「子宮作家」呼ばわりされたこともある▲「書き魔」を自認する一方で反戦や反原発など社会活動にも熱心だった。故郷で起きた「徳島ラジオ商殺し事件」(53年)ではずさんな捜査を告発し、犯人とされた女性が死後に再審無罪を勝ち取るまで支援を続けた▲天台宗の宗祖、最澄(さいちょう)の「忘己利他」(もうこりた)の言葉に通じる。先進的な近代の女性たちを取り上げた作品群やベストセラーの源氏物語(現代語訳)も日本人の心を豊かにした施しだろう▲携帯やネット、LINE(ライン)など最新の流行にも敏感な「俗」の心を併せ持ち、若者にも慕われた。出家得度(しゅっけとくど)48年を目前にした99歳の大往生。本人が墓碑銘に望んだ言葉は「愛した、書いた、祈った」である。

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