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【新聞コラム特集】
産経新聞・産経抄(2021年11月14日05:00)

 独立メディア塾 編集部

「家出」の前後を入れ替えると「出家」になる。静かな人生にはどちらも出る幕のない言葉だろう。「それを二つとも選んでしまったという私の人生が、平穏順調である筈(はず)がない」。99歳で亡くなった瀬戸内寂聴さんは、随筆にそうつづっていた。
▼「小説家になります」と言い残し、夫と3歳の娘を置いて家を出た。当時25歳。やがて作家として名を成し、道ならぬ恋に何度も落ち、誰かを愛しては傷つけた。「所詮人間の愛は、相手を幸福にしない」とむなしさを覚え、仏門にすがり得度したのが51歳だった。
▼多情多感な女性の愛欲を描いたデビュー直後の作品に、文壇は「情痴作家」の判を押し、瀬戸内さんはぶれぬ信念を持つことで悪評に報いた。「切っても血もにじまないような知的小説を書く作家といわれるより、私は一生、情痴作家と呼ばれても悔いはない」と。
▼因習の束縛にあらがい、自由を求める女性たちを描いた評伝。愛憎に身を焦がす、なまめかしい女性たちを描いた小説。半世紀を超す作家活動で刊行した本は400冊以上という。穏やかな日々に背を向けた人の、情念の炎がまだ燃え続けているかのようでもある。
▼源氏物語の現代語訳(全10巻)で描いたのも「恋に心が傷つき血を流す」女性たちの、哀(かな)しくも美しい姿だった。文壇に刻んだ消えない足跡である。80代でケータイ小説に挑んだみずみずしい感性や、救いを求める人々にかんで含めるように説いた法話も忘れ難い。
▼死刑制度や憲法9条改正への反対など、事績の全てにうなずけるわけではないが、「いじらしいかなしい存在」という人間への慈愛が駆り立てた言動だったことは分かる。残された作品たちはこの先も、人々の中で何事かを語り続けるのだろう。

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