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75年の節目

テレビ屋 関口 宏

 コロナ、プラス猛暑の8月が終りました。猛暑はいずれ治まってくれるでしょうが、コロナはどうなって行くのでしょうか。

 過ぎた8月を振り返れば、8.6「広島の日」、8.9「長崎の日」、8.15「終戦の日」の各式典では、主催者達のご苦労が滲み出ていました。まず参加者全員のマスク姿は、かつては見られなかった光景。また参加者同士の距離を考えて、少人数での開催は仕方のないことだったのでしょう。これらの映像はゆくゆく貴重な資料になるでしょうが、来年はこうあって欲しくない、コロナは終わっていてほしいという想いの中で、式典の映像をご覧になっていた方も多かったのではないでしょうか。
 今年は終戦から75年の節目の年。コロナがなければ、もっともっと戦争に対する想いを共にしたいという企画もあったのかもしれません。

 私が参加した8.15終戦特番(TBS)も大変でした。昨年は戦争と子供達、一昨年は戦争と若者達を考えてきた特番。今年は「女性たちの8.15」と題して、ひめゆり学徒隊、国防婦人会、特攻隊に志願した女性達、大陸の花嫁と称して国策で満州に渡った女性達等々を取材して、当時の女性達がいかにして戦争の犠牲に巻き込まれていったかを考える企画になりました。



 そしてこうした企画には、体験された方の生の声が絶対に欠かせない要素になります。調査を重ねるうち、存命されている方が数人見つかり、取材の許可も取れました。しかし今年はコロナのせいでいつも通りの取材ができません。スタッフの東京から地方への移動にも気を使わねばなりませんし、取材を受け入れてくださった方は皆、超高齢者。万が一のことがあってはいけないとスタッフにはPCR検査を受けてもらい、取材を受けてくださった方々にはフェースシールドをかけていただくという中での取材になりました。
 こうして苦労しながら取材した映像を編集して、現在の女子高校生に観てもらって感想を述べてもらう今年の企画。協力してくださったのは、茗荷谷の跡見学園。その講堂をお借りして女子高校生8人と歴史に詳しい保阪正康氏、そして私とアシスタントの皆川玲奈さんとの収録が行われました。が、そこでも万が一のことが起きてはなりません。スタッフは全員フェースシールド、女子高校生の間には十分距離をとってアクリル板、私と保阪氏の間にもアクリル板。 コロナがなければもっと近くで話ができたのに、離れ離れの中での不自由な会話になってしまいました。それでもスタッフの懸命な努力の結果、放送時点ではしっかりとした番組に仕上がっていました。



 ご協力いただいた証言者の方々、跡見学園、そして女子高校生達に心より感謝いたします。

 それにしましても終戦から75年。75年といえば、ほぼひとりの人間の人生の時間。とするなら75年で世代がすっかり変わってしまう節目でもあり、先の戦争の記憶は、「風化」が進んでしまっても仕方のないことなのでしょうか。
 NHKの「クローズアップ現代」の終戦特集では、各地に残る戦争資料館や慰霊碑の維持が困難になってきていることを伝えていました。それらを頑張って守ってきた人々も高齢化してしまったことが大きな原因のようですが、何か虚しい想いの中で番組を見つめていました。

 それでも次の世代に、戦争の記憶を伝え続けてほしいと願う人は少なくありません。それにはどんな方法があるのか。私にその知恵があるわけではありませんが、一つ言えることがあるとするなら、今回私が参加した終戦特番でも感じた「教育」の大切さなのかもしれません。
 75年前の古い映像を真剣に見つめていた女子高校生達。映像の中で、戦争の犠牲になった高齢者の女性が呟いた「騙されました」という一言に、強いメッセージを感じたと感想を聞かせてくれました。

   戦争の記憶の伝え方は、まだまだあるような気がしています。

     テレビ屋  関口 宏

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