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経済制裁とデモがロシアを変える

ジャーナリスト / 元上智大学教員 小此木 潔

 ロシア軍によるウクライナ侵略をやめさせようと、欧州連合(EU)と米英などは2月26日、これまでよりも強力な経済制裁の措置として、ロシアの主要銀行を「国際銀行間通信協会」(SWIFT)から締め出す措置をとることで合意した。これによってロシア経済がかなりの打撃を受けるのは必至で、ロシア国民の苦境と不満が反戦平和運動となって噴出すれば、プーチン大統領の暴走に歯止めがかかり、プーチン政権の崩壊の引き金となる可能性もある。

 SWIFTから排除で深刻な打撃

 グローバルな資金決済のインフラとして機能しているSWIFTは、世界の金融機関が出資して1973年につくった非営利法人(本部・ベルギー)が運営するシステムで、事実上EUの方針の影響を受ける。今回は慎重論に立っていたドイツがウクライナへの武器供与も含めた支援を明確にしたのを機にフランス、イタリアなどと足並みがそろい、EUの執行機関である欧州委員会(EC)や、ドル資金の決済に強い影響力を持つ米国、さらには英国、カナダとともに金融制裁の強化に関する共同声明を発表した。
 具体的な影響としては、ロシアの輸出の大黒柱である石油・天然ガスの取引の際の資金決済がかなり困難になる見込みだ。ロシアの銀行の一部はSWIFTから排除されないので、欧州諸国が必要としている天然ガスなどの貿易が完全に止まるということではなさそうだが、それにしても深刻な影響が出るのは避けられない。
 中国がつくっている人民元の国際決済システムをロシアが頼るとしても、規模が小さいので大して助けにはならないだろう。
 ロシアの輸出と国内総生産(GDP)に急ブレーキがかかるだけでなく、世界市場も石油・天然ガスのひっ迫で価格高騰を招くことになり、グローバルなインフレや、スタグフレーション(不況とインフレの同時進行)が人々を苦しめることも予想される。それでもなお、ウクライナ侵略を止めたいと考える欧州の人々の願いと意思は強いということが共同声明には示されている。

 停滞から破滅へ向かうロシア

 現代史を振り返れば、経済運営の失敗がソ連・東欧の社会主義ブロック崩壊を招き、その後のロシアの孤立にもつながっていったことがわかる。しかも近年のロシアの経済停滞は、プーチン大統領による独裁政治と、武力によるクリミア併合を機に欧米諸国から受けてきた経済制裁の影響が大きい。
 ロシアと歴史的なつながりが深いウクライナまでもがロシアを脅威として恐れ、北大西洋条約機構(NATO)加盟で安全保障を図ろうとしていること自体、ロシアの外交だけでなく経済政策も含めた政治の失敗を反映していると言える。
 その上に起きた、今回のウクライナ侵攻は、プーチン政権とロシアの力の誇示というよりも、親類だったような国々が離反して自らも崩壊の悪夢にうなされて絶望のあまりに引き起こされた自滅的な侵略行為に見える。それはむしろ明日を展望できないほどの弱さの露呈であろう。
 万一ロシアがウクライナに傀儡政権を樹立したところで、住民無視の政治がウクライナはもちろんロシア国民の幸福や経済発展につながるとは到底思えない。

 反戦民主主義とデモに未来が?

 米国も派兵を断念している現状では、誰もプーチンの暴走を止められないようにも見えるが、モスクワなどの街頭で弾圧を受けながらもデモに出ている市民たちが少なくないことは、ロシアに芽生えている変革への動きとして注目したい。
 思えば、1917年ロシア革命は、第一次大戦中の反戦運動に支えられていた。大義なき戦争に駆り出された兵士たちにレーニンの「すべての権力をソビエト(労働者・兵士の評議会)へ」という訴えが浸透していったのは、それが反戦平和への人民の意思を直接民主主義の形態でまとめ上げていく自然なやり方として輝きを放っていたからに違いない。
 その後は、人民を代表すると称する共産党の独裁が長らくロシアを覆い、ゴルバチョフがそうした負の歴史に幕を引いた後も、独裁政治は元KGBのプーチンによって蘇り、今日の悲劇を生んでいる。
 いま、歴史は恐ろしい悲劇を前に、再び反戦平和と民主主義を求めるロシア民衆の力強い復活を待っているかのようだ。
 国際社会による経済金融制裁の強化が世界の人々も苦しめる中で、経済への打撃を通じてロシアの人々が覚醒し、反独裁・反戦民主主義のうねりを引き起こしてこの危機を大転換する…。つらいニュースの向こうに、そんな期待を抱かずにはいられない。

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